山岳遭難事故や水難事故に対応する埼玉県警山岳救助隊に、初の女性隊員が誕生した。民間のボート乗務員や陸上自衛官の経験を持つ小松彩巡査(30)だ。2日、小松さんら隊員5人による荒川での水難救助訓練に同行し、ボートに同乗してその仕事ぶりを取材した。
訓練では、埼玉県皆野町から同県長瀞町までの約3キロを手漕ぎの小型ボートで進んだ。コースには水難事故が多発する観光名所「長瀞岩畳」やキャンプ場などがある。
川底が急に深くなる場所も多い。ふわりと船体が宙に浮き、水面へとたたきつけられ、勢いよく水しぶきが降り注いでくる。
小松さんがこの日担当したのは、流れの状況を見極めて臨機応変にコースを判断する「ラダー」という役目だ。いわば船頭である。船を岸に寄せたり見えにくい岩を避けたりしながら、巧みに船体を誘導していく。配属からわずか約5カ月ながら、同僚隊員は「小松さんの技術には学ぶところが多い」と評する。
小松さんは東京都北区出身。小学生時代、2001年の米中枢同時テロに衝撃を受け、「人を守る仕事をしたい」と思うようになった。都立高校卒業後、陸上自衛隊で4年間勤務したが「直接人の命を救う機会は少ない」と感じ、警察官を志した。
警察に入る前に民間の世界も経験しようと、小型ボートで川を下る「ラフティング」のガイドに就き、4年目に長瀞町に赴任した。そこで知己を得た埼玉県警山岳救助隊幹部の勧めで同隊を志望、県警に入って交番勤務を経験し、今年3月に山岳救助隊へ配属された。
力を入れているのはやはり事故の未然防止だ。「天候に応じて声をかけ、皆さんが笑顔で帰れるようにしたい」。2日の訓練中も、川の水量が増しているとみるとスピーカーを手に取り、「中に入らないようにしてください」と川遊びをする観光客たちに促した。
「先輩隊員に追いつくのは大変。体力をつけたい」と小松さん。それでも、現場で住民から「ありがとう」と声を掛けられたときは「警察に入ってよかった」と喜びを感じるという。
「山に登る女性も増えている。救助する際に女性がいれば安心感もあると思う。どこかで役に立つときが来る」と表情を引き締めた。
(内田優作)