好漁場として知られる日本海沖の大和堆(やまとたい)で、中国漁船の違法操業が、現時点で昨年1年間の約4倍に急増していることが14日、水産庁への取材で分かった。大和堆は北朝鮮が排他的経済水域(EEZ)と主張する海域に近いとされ、これまでは北朝鮮漁船による違法操業が目立っていたが、中国漁船がこれに取って代わった形だ。北朝鮮が「漁業許可証」を中国漁船に密売して外貨を獲得している疑いがあり、国連安全保障理事会の制裁決議違反に当たるとの指摘も上がっている。
【写真】違法操業する中国漁船
水産庁によると、大和堆周辺で水産庁が退去警告をした中国漁船は昨年1年間で1115隻だったが、今年は今月5日時点で4035隻に急増。逆に昨年は4007隻だった北朝鮮漁船は、わずか1隻に激減している。
水産庁関係者は「新型コロナウイルス流入のおそれなどで操業を控えた北朝鮮漁船から、中国漁船に置き換わっている可能性がある」と指摘。大半の中国漁船の大きさは北朝鮮漁船の数倍で密漁規模も大きく、「漁業資源の枯渇につながる」と警戒を強めている。
国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会・専門家パネルの中間・年次報告書によると、中国漁船はネットで北朝鮮の漁業許可証を示した上で「北朝鮮でイカ釣りをしたい漁船はいないか?」と北朝鮮がEEZと主張する海域で操業する仲間の漁船を募集。許可証は2019年時点で、その前年の2倍超の3カ月あたり40万元(約637万円)で密売されていた。
衛星などで漁船を監視する国際NPO「グローバル・フィッシング・ウオッチ」によると、19年には中国の港から出た漁船約800隻が北朝鮮の海域を中心に操業していたことも確認。こうした漁船が今年になって大和堆付近に出入りしている可能性が高い。17~18年には違法操業で日韓を合わせた漁獲量に相当する4・4億ドル(約460億円)が失われたと推定されている。
海上保安大学校・政策研究大学院大学の古谷健太郎教授(海洋法)によると、漁業権購入は国連の経済制裁違反に該当し、外国海域での無許可操業も中国の国内法違反に当たる。
違法操業に対する水産庁や海上保安庁の取り締まりは追い付いておらず、古谷教授は「中国側にも取り締まりを求めるべきだ」としている。(荒船清太)
■大和堆 日本海中部で冷水と暖流の境目に位置する海底山脈。プランクトンが豊富で魚が集まりやすく、スルメイカやカニの好漁場として知られる。日本の排他的経済水域(EEZ)にあたり、日本政府の許可なしに外国船は操業できない。