■米ハーバード大 マイケル・サンデル教授
ドナルド・トランプ米大統領は、新型コロナウイルス危機への対応に多くの点で失敗した。にもかかわらず、大統領選では7000万人を超える米国人がトランプ氏に投票し、得票数は前回選を上回った。
一体なぜなのか。民主党はジョー・バイデン前副大統領の勝利に慢心せず、自問自答すべきだ。米国は、能力主義の競争を勝ち抜いた「勝ち組」が傲慢(ごうまん)になり、置き去りにされた人々に優しさを示さない社会になってきたのではないか。
米国の労働者層は、伝統的に民主党を支持してきたが、1990~2000年代前半、共和党に支持を変え始めた。グローバル化で生じた社会の不平等に、民主党が効果的に対応できなかったのが原因といえる。
民主党はトランプ氏を選挙で破り、民主的な手続きで排除することに成功したので、自らの政策やメッセージを見直す必要はないと結論づけるかもしれないが、それは誤りだ。
バイデン氏が大統領になっても、行き過ぎた能力主義が生み出した格差と深い溝が消えてなくなることはない。
「尊厳」の話をしよう(以下インタビュー) ――9月発刊の新著で、米社会の過度な「能力主義」を批判的に論じている。 ハーバード大の授業で「公正な大学入試制度とは何か」を議論している時、多くの学生が「自分の成功は自らの努力の結果だ」と思い込んでいることに気付いた。ハーバードはたしかに狭き門だが、そこに入学できたのは、自分の実力だけではない。生まれた家庭や周辺からの支援、受験の準備を手伝う家庭教師の存在なども左右している。
アイビー・リーグの学生の3分の2は、米国の上位20%の収入の家庭出身だ。米社会は学歴による分断を深めている。大統領もジョージ・ブッシュ氏(父、任期1989~93年)以降、アイビー・リーグ出身者が続いてきた。ただ、ジョー・バイデン次期大統領は違う。中流家庭出身の大統領として、問題の是正に力を尽くすかもしれない。