在日韓国人3世の実業家、大山健太郎アイリスオーヤマ会長は19歳の時に引き継いだプラスチック会社を56年間で売上高6900億円の企業に育てた。 アイリスオーヤマ提供
「いつまた他のコロナウイルスが拡大するか分からないが、韓国は首都(ソウル)への集中度が日本よりも深刻だ。企業が自ら分散してリスクを低めなければ韓国の最も大きな弱点になるだろう」。
アイリスオーヤマの大山健太郎会長は新型コロナ事態以降、日本で最も注目される実業家に挙げられる。アイリスオーヤマが昨年初め、日本のマスク品薄事態を解消するのに大きく貢献したからだ。日本政府のサプライチェーン再編(リショアリング)政策1号企業に選ばれたアイリスオーヤマは、中国の生産施設を日本に移して月1億5000万枚のマスクを生産した。
大山会長は在日同胞3世だ。19歳だった1965年に引き継いだ零細プラスチック工場を56年間で売上高6900億円の企業に育てた。韓国証券市場で時価総額15位のLG生活健康に相当する規模だ。最近、韓国経済新聞のオンラインインタビューに応じた大山会長は、出生率統計から入試戦争、就職難まで韓国の事情をよく把握していた。
--日本で事業をするのは難しくなかったのか。
「差別を受けたことはない。ハンディキャップはあった。ハングリー精神は腹を満たせば消えるが、ハンディキャップは人間を強くする。精神的なハンディキャップはエネルギーにつながると考える」
--最近の韓国社会をどう見ているのか。
「韓国が『漢江(ハンガン)の奇跡』を起こすことができたのも、すべての国民と企業家が戦争のハンディキャップを克服した結果ではないだろうか。残念ながら日本と韓国ではともに若者のハンディキャップが消えた。世界的な観点で見ると、北東アジアの国は中国という強大国が隣国として存在するという大きなハンディキャップを抱えているにもかかわらずだ」
--日本企業と比較して韓国企業の競争力は。
「敗戦から立ち上がろうとするエネルギーが日本を興したように、韓国も戦争の廃虚を克服しようとする強いエネルギーが『漢江(ハンガン)の奇跡』を築いたと考える。韓国企業は後発走者として日本に追いつこうとする意欲が強い。これがエネルギーになったとみている」
--事業をしながら感じる日本企業の競争力は。
「産業構造は日本企業の競争力であり弱点でもある。日本の家電が韓国に追い上げられた原因に、両国の企業の弱点と競争力が反映されている。日本は明治維新以降、中小企業を育成するのに力を注いだ。その結果、下請け企業が大きく発達した。日本の大手家電企業は海外の技術を借用して日本式に改造した後、下請け企業に部品の生産を任せればよかった。下請け企業の部品を購入して組み立てるアセンブリー業種になったのだ。このおかげで世界との差を非常に速く埋めることになった」
--下請け企業の発達は弱点にもなったのか。
「下請け企業から調達した部品を組み立てて販売すれば、リスクが少なかった。アイデアと技術さえあれば製品を生産するのに問題がなかった。しかし世界舞台での競争力は遅れを取った。スピードと価格競争力の面で韓国と中国に追い上げられた」
--韓国企業の競争力は何か。
「日本に比べて下請け企業が発達しなかったハンディキャップが韓国企業の競争力になった。製品の企画から設計・製造まで自らする内在化率を高める結果につながった。自らリスクを抱えながら事業をすると競争力は高まるしかない」
--韓国社会の弱点をどう見ているのか。
「韓国は日本より首都(ソウル)への集中度が深刻だ。韓国は首都の機能を移転するのでなく企業を分散させなければいけない。企業が自ら各地域に一日も早く分散するのがよい。いつまた他のコロナウイルスが広がるか分からないが、集中のリスクを分散で解決しなければ韓国の最も大きな弱点になるだろう」
--ソウルへの集中度が弱点として作用する理由は。
「実際、首都集中度が高ければ企業としてはよい。効率性が高いからだ。しかし職員には良くない。物価が高く、住宅費用が上がる。その結果、会社はさらに成長するが、個人の生活はそれほど豊かにならない。表面的には潤っているように見えるかもしれないが、住宅費用と教育費がかなりかかる。だから子どもを産まないのではないだろうか」
--企業が自ら分散する理由はないのでは。
「日本と違い韓国は内需市場規模が小さい。このため企業構造が過度に輸出に依存することになった。韓国の貿易収支は黒字を継続し、企業の時価総額は大きくなったが、一人一人の生活は豊かになっていない。今のように月給の相当な部分が住居費用と教育費として消えれば、個人の消費が増えず、生活も良くならない。韓国国民の生活基盤を豊かにして消費力を高めなければいけない。決断をすべき時期だ」
--韓国のサプライチェーン再編政策をどう評価するか。
「内需市場を育てなければ韓国企業の海外工場をあえて韓国に戻しても意味がない。韓国企業のベトナム工場で作って韓国に輸入する商品はインセンティブを与えて国内にUターンさせ、雇用を増やすことが重要だ。しかし韓国企業の大半は中国や東南アジアで生産した製品を米国や欧州に輸出するのではないのか。これを韓国に戻せば競争力が消えるだけだ」
--日本での就職を目指す韓国の若者が多い。
「アイリスオーヤマ韓国法人を通じて毎年大卒者を採用しながら感じることだが、韓国の学生はブランド主義があまりにも強い。大企業ももともとは中堅・中小企業だった。この10年間に韓国の学生のチャレンジ精神が大きく落ちたことを感じる。『良い大学を卒業したので私は立派だ』と錯覚している」
--韓日関係の改善のために必要なことは。
「両国の不幸な過去は歴史的な事実だ。ただ、韓国人が植民地時代を認識する形と日本人が当時を認識する形は言語の差ほど大きくなるしかない。過去は消えないが、後ろばかり見て生きることはできないのではないだろうか。未来を眺めてお互い協力しなければいけない。歴史の問題は置いておき、経済の面で持続的に連係しながら一歩ずつの前に進まなければいけない」
--米国式の支配構造について憂慮しているが。
「日本・韓国ともに戦後は米国の金融資本と技術に支えられて成長した。製品を米国に売って成長し、株式を上場(IPO)すれば米国の金融機関やファンドが株式を保有する構造だった。その結果、現在の上場企業の大半の株主が金融機関とファンドだ。米国式金融資本主義体制になった」
--金融資本主義が問題なのか。
「会社を設立目的に基づいて運営するより利益と配当を優先視するしかない。大株主が圧力を加えるからだ。もう日本・韓国企業ともに自立する力がある。株主が所有権を持つが、売上高を発生させて利益を出すのは株主でなく経営者と社員だ」
--企業家精神が弱まったことを心配しているが。
「日本企業は成長すればすぐに上場してしまう。上場が悪いとは思わないが、目の前の経営実績にこだわるのは事実だ。戦後70年が過ぎ、敗戦のハンディキャップを持つオーナー企業が消え、優秀なサラリーマンが任期4-6年の経営者になっている。この人たちは長期的な観点で企業を経営することができない。目に見える課題を解決するのには非常に優れているが、見えないビジネスチャンスをつかんだりグローバルな観点で会社を経営することはできない。このため当面の課題を解決したにもかかわらず、世界の舞台では遅れをとる状況が生じる」