サムスン電子の李在鎔副会長(左から4人目)が昨年10月にオランダのASML本社を訪れEUV(極端紫外線)露光装備をチェックしている。[写真 サムスン電子]
「サムスン電子25:TSMC50」。世界の半導体戦争のゲームチェンジャーと呼ばれる極端紫外線(EUV)装備の保有台数だ。超小型・低電力・高性能チップを効率的に製造できるEUV装備の保有台数はそのまま企業の半導体技術と資金力、生産能力を判断する核心指標として通じる。世界の半導体企業がEUV装備確保戦に死活をかける理由だ。
15日の業界によると、昨年末基準でサムスン電子が確保したEUV装備は25台で、世界1位のファウンドリー(半導体受託生産)企業である台湾TSMCの45~50台の半分水準であることがわかった。サムスン電子は京畿道華城(キョンギド・ファソン)のEUV専用ラインと京畿道平沢(ピョンテク)第2工場にこの装備を分散配置した。
オランダ製EUV装備の価格と設置費は1台当たり2000億ウォンを超える。EUV装備保有台数が半導体企業の競争力の尺度に選ばれる理由だ。TSMCは回路線幅5ナノメートル以下の超微細プロセス開発を本格化した2018年以降にEUV装備の全出荷量75台のうち60%以上を占めたという。残りはサムスン電子、インテル、マイクロン、SKハイニックスなどが分け合った。
装備保有台数の格差はシェア格差として定着する可能性が大きい。EUV装備が十分でなければ「最新チップを製造してほしい」という顧客の注文を受けられないためだ。サムスン電子には現在ファウンドリーシェア「20%の壁」が立ちはだかっている。
サムスン電子は劣勢を克服するため次世代技術開発に乗り出している。来年本格量産を開始する3ナノメートル以下のプロセスでは世界で初めてチップの電力効率性を大きく高めたGAA技術を導入する計画だ。
EUV装備確保にも注力する計画だ。昨年サムスンは20台ほどの装備を追加注文したという。人工知能(AI)や自動運転車の拡散により超微細プロセスで生産する半導体需要が急増するのに対応するためだ。サムスン電子でシステム半導体を総括したある元社長は「ファウンドリーを基盤にファブレス、パッケージングなど前後方生態系を急いで構築してこそTSMCに追いつくことができる」と話した。
◇「ファウンドリー追撃の意志折る」…TSMC、毎年サムスンの3倍投資
昨年10月、青い防塵服を着たサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長がしゃがんである電子装備を穴があくように見ている写真が話題になった。オランダのアムステルダムにある半導体装備メーカーASMLの本社でEUV装備をチェックする姿だった。欧州出張の途中にASMLに立ち寄った李副会長は「EUV露光装備を『もっと多く、もっと早く』供給してほしい」と要請した。
◇顧客は「純粋ファウンドリー」好む
李副会長が直接乗り出したのには理由がある。サムスン電子は2019年4月に「システム半導体ビジョン2030」を発表した。2030年まで133兆ウォンを投資してこの分野で1位に上がるという目標にはファウンドリー世界1位の達成も含まれた。だが孤軍奮闘して世界2位を守っているサムスン電子が1位である台湾TSMCの壁を越えるのは容易でないという評価が出ている。
市場調査会社のトレンドフォースによると、1-3月期の市場シェア見通しはTSMC が56%、サムスン電子が18%だ。サムスン電子はファウンドリー市場で「シェア20%」を1度も超えたことがない。TSMCはサムスン電子の追撃を振り払うために毎年サムスンの3倍に達する設備投資を行っている。今年は過去最大規模となる280億ドルを投じて台湾の台南などに3ナノメートル生産ラインを建設する計画だ。
さらにサムスン電子ファウンドリー事業は生まれながらの弱点を抱えている。スマートフォン用アプリケーションプロセッサ(AP)などの設計・販売を担当するシステムLSI事業部がひとつ屋根の下にある。クアルコムやエヌビディアなどのファウンドリー顧客は情報流出などに対する懸念のため競合企業であるサムスン電子の代わりにファウンドリーを専業で行うTSMCを好むほかない。
ファウンドリー事業を分社するのも容易ではない。メモリー半導体事業での稼ぎをファウンドリーに投資することが不可能になるためだ。結局競合企業を圧倒する技術力で顧客を引き込まなくてはならないが、これを実現するにはEUV装備が必須だ。ソウル大学半導体共同研究所のイ・ジョンホ所長は「EUV装備は価格も高いが供給が限定的。李副会長のASML訪問はサムスンがファウンドリー事業に強い意志があることを見せた事例」と説明した。
◇孤軍奮闘するファブレス
ファウンドリーとともにシステム半導体産業のひとつの軸を担当するファブレス(半導体設計専門)分野でも韓国企業は孤軍奮闘し競合企業の高い壁を実感している。
スマートフォンAP市場で「エクシノス」を開発・販売するサムスン電子システムLSI事業部は3~5位を行ったり来たりしている。プレミアムチップ市場では米クアルコム、中低価格分野では台湾メディアテックが頭角を見せ、昨年AP市場の約50%を持っていった。システムLSI事業部の弱点には自社スマートフォン中心の事業構造と競合企業より30%以上不足する設計人材などが挙げられる。
デジタル機器で「目」の役割をする半導体であるイメージセンサー市場では日本のソニーの牙城を切り崩すのが容易ではない状況だ。市場調査会社のTSRによると、昨年のサムスン電子のイメージセンサーシェアは19.8%、ソニーは45.1%を記録した。2019年のソニー48.4%、サムスン18.0%より格差を縮めたが依然として25ポイント以上の開きがある。サムスン電子はピクセルサイズ0.7マイクロメートルのイメージセンサー、1億800万画素製品などを世界で初めて開発し供給会社を拡大しているが、ソニーが積み重ねてきた評判と顧客ポートフォリオに短期間で追いつくのは容易でない。このほか中型ファブレスの中でシリコンワークスが2019年基準で売り上げ19位、ディスプレー駆動チップ(DDI)市場では3位圏に入り善戦している。
◇半導体生態系構築に努力しなくては
半導体業界ではシステム半導体の生態系構築を喫緊の課題に挙げる。ファブレス、ファウンドリー、後工程(パッケージング)など各分野で世界的な企業が出てきてこそ、韓国のシステム半導体産業が成長する土壌になるということだ。業界関係者は「おいしい飲食店が集まってこそ『グルメ通り』として噂になりお客が多く訪れるように、システム半導体産業でも分野ごとに強い企業がいくつか出てこなければならない。特に後工程分野の企業の競争力が高まらなければならない」と話した。韓国にもネペス、SFAなど後工程企業があるが、台湾のASEのような世界1位の企業と比較すると売り上げは40分の1水準だ。
サムスン電子も生態系構築の必要性を悟り前後方企業との協力を強化している。2018年から電子設計自動化(EDA)企業、デザインハウス、パッケージング企業などが参加しているファウンドリー生態系プログラム「SAFE」を運営しているのが代表的だ。KAIST電機・電子工学部のキョン・ジョンミン名誉教授は「ファウンドリー生態系に韓国企業が多く参加することでともに実力が伸びる。政府もシステム半導体生態系構築に積極的に乗り出さなければならない」と強調した。