新型コロナで存続の危機到来
芸備線(画像:写真AC)
全国でローカル線の廃止が進んでいる。特に大がかりな廃止が行われている北海道では2019年に石勝線の夕張支線、2021年に日高本線が部分廃止。さらに留萌本線のほか、北海道新幹線の札幌延伸で並行在来線となる区間の廃止検討も進んでいる。
【画像】芸備線存続の「要望書」
要因は
・モータリゼーションの普及
・過疎化
・人口減少
などさまざまだが、もちろん対象は北海道だけではない。岡山県と広島県の中国山地を走るJR西日本芸備線も、存続に向けて模索が続いている。
芸備線は備中神城駅から広島駅までを結ぶ長大な路線で、全線を通した列車はなく、備後落合駅(実際には新見駅発着)と三次駅で運転系統が分かれている。このうち広島~三次間は快速電車の「みよしライナー」も設定されており需要も多いが、それを除けば閑散としたローカル線だ。
とりわけ備中神城~備後落合間は、1日当たり上り6本、下り5。下りの列車のうち3本は、途中の東城駅までしか行かない閑散とした路線である。
存続の危機が訪れたのは、新型コロナウイルスの感染拡大が影響している。もともと利用者の少ない路線を抱えていたJR西日本だったが、感染拡大の影響で経営状況は悪化。2021年3月期決算では純損益が2332億円の赤字となり、2022年3月期決算でも1000億円規模の赤字が見込まれている。
今後も利用回復が期待できないと見た同社は2022年1月、長谷川一明社長がローカル線の大規模な見直し方針を表明。ここでは
「輸送密度2000人」
を目安に、路線の存続・廃止を見直すとしている。
閑散区間に定期利用者がいない現状
芸備線(画像:写真AC)
この発表は、中国地方の各自治体に衝撃を与えている。
例えば山口県では、この目安だと幹線である山陰本線や山口線も見直し対象になってしまうからだ。同じく路線の多くが見直し対象となる島根県でも、丸山達也知事が記者会見で「新幹線から地方路線、大動脈から毛細血管までつなぐのがJR。黒字路線しかやりたくない、というのは違うのでは」と、苦言を呈している(『中国新聞』2022年1月13日付朝刊)。
JR西日本の資料によると、路線全体で輸送密度が2000人を下回る路線には次のものがある。
・小浜線(敦賀~東舞鶴、密度782人)
・芸備線(備中神代~広島、1140人)
・姫新線(姫路~新見、1119人)
・因美線(東津山~鳥取、971人)
・木次線(宍道~備後落合、133人)
・山口線(新山口~益田、1045人)
これは路線ごとの数値だが、芸備線は広島駅に近い区間では2000人超、山陰本線は路線全体では2000人を超える。しかし、都市部以外は2000人以下など濃淡がある。いずれにしても2000人以下という基準にすれば、半数がバス転換を含めた見直し対象になっている。
これまでJR西日本では、新幹線と京阪神の路線の利益で赤字路線を維持してきた。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大とテレワークの普及で、従来通りの利益を得ることはできないと考えている。
なかでも芸備線が危機的なのは、
「閑散区間の定期利用者がほとんどいない」
ことだ。これが明らかになったのは、JR西日本による発表後に備後落合駅のある広島県庄原市が始めたモニター調査である。
市内の高校生を対象として、22人に自宅最寄り駅から高校最寄り駅までの定期券を無償で配布し、利用した日時や目的を記録してもらうというもの。「定期券を無償で配布」から分かるように、市内の高校生でも普段の通学には芸備線を使わず、バスや保護者による送迎が多数なのだ。
この調査について、広島県の担当者は
「今の高校生は芸備線に乗ったことがないという人も少なくない。この機会に鉄道の魅力を感じてもらい、利用促進につなげたい」
とコメントしている(『中国新聞』2022年1月26日付朝刊)。
ローカル線の廃止議論が持ち上がると、通学で利用している高校生への対応が必ず議題にあがる。ところが芸備線の閑散区間では、そうした利用すら壊滅している状況なのだ。