7年前の9月16日。この日を境に、加藤裕希さん(49)の心は止まった。
【写真】東武動物公園を訪れ笑顔を見せる加藤さん一家(2015年1月)
この日、仕事を終えて家に帰ろうとしたら、自宅の周囲一帯に警察の「立ち入り禁止」のテープが張られていた。
2階の長女の部屋に明かりがついているのが、遠くから見えた。「どうしたんだろう、普段なら夕食前のこの時間は1階にいるのに」。妻に何度も電話したが、つながらない。まさか家の中で家族全員が殺されていたとは、加藤さんは「1ミリも想像していなかった」。
だが、警察署で妻の美和子さん(41)と、長女の美咲さん(10)、次女の春花さん(7)が心肺停止と告げられ、後に亡くなったと知る。何が起きたかのみ込めないまま、ただ漠然と、「今日から一人になるのか」という思いが頭に浮かんだ。
帰らぬ3人待ち 家守る
今も事件当時の自宅で暮らす加藤さん。リビングには美咲さんと春花さんが描いた絵が飾られている(2月12日、埼玉県熊谷市で)=岩佐譲撮影
事件後の加藤さんの自宅(2015年9月17日、埼玉県熊谷市で)
「死なないように、生きてきた」。加藤裕希さん(49)はそういう言葉で、この7年を表現した。
埼玉県熊谷市で、妻と娘2人とともに家族4人で暮らしていた。2階建ての自宅を建てたのは次女が小学校に上がる頃。それから1年半後、2015年9月に事件は起きた。
のちの裁判で認定された事実によると、ペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン受刑者(36)は、同年9月13日、市内の民家に立ち入っていたところを見つかり、事情聴取のために地元の警察署に連れて行かれた。しかし、喫煙のために外に出た隙に逃走。9月14日から16日にかけて民家3軒に侵入し、男女6人を殺害して現金などを奪った。その3軒目が、加藤さんの家だった。
家の中でナカダ受刑者は、加藤さんの妻の美和子さん(当時41歳)、長女・美咲さん(同10歳)、次女・春花さん(同7歳)を刃物で殺害した。そして、自分の腕を切りつけた後に2階から転落し、警察に確保された。
仕事から一人戻った加藤さんは警察で長時間、説明を受けたが、ほとんど覚えていない。
ただ、司法解剖を終えた妻と娘たちの遺体に対面し、まるで眠っているように目を閉じる3人を見て、「本当に死んでしまった」と認識した。その場で泣き崩れた。