ちょっぴりはにかみながら勝ちどきを上げる藤井聡太竜王
将棋の最年少5冠、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖=19)が17日、山形県天童市で3年ぶりに復活した「人間将棋」に初出演した。
【写真】武者姿の藤井5冠(右)は佐々木六段と刀を交える
同市にも初見参。りりしき武者姿で西軍の大将となり、東軍率いる佐々木大地六段(26)と対戦。22年度「初対局」を白星で飾った。
満開の桜に囲まれ、対局開始前からノリノリだった。「佐々木殿とその師匠の深浦殿には手痛い目(佐々木との対戦成績は2勝2敗、深浦康市九段とは1勝3敗)にあってござる」。マイクで武家言葉であいさつし、場内の爆笑を誘った。
対局では機敏な指し回しで佐々木を圧倒。「わが軍が圧倒的に有利でござる」と宣言し、押し切った。白か黒かの厳しい現実を突きつけられる公式戦の対局ではまず見られない。対戦相手との即興の掛け合いや、お祭り的な「野試合」を楽しんだ。人間将棋独特の「40枚すべての駒を動かす」というルールにも両者で対応し、全部動かした。
3年ぶりの復活、藤井の出演とあり、観客660人の定員に対し、競争率17・7倍となる1万1714人が応募した。ライブ中継したニコニコ生放送は約6万人が視聴。コロナ禍もあり、3年前に2日間で11万6000人が来場した実績には程遠いが、「予想以上の盛況ぶり」と、天童市役所では手応えを感じていた。
将棋の駒の生産が全国の95%を占める天童は、織田信長の子孫が幕末に武士の殖産興業策で駒作りを始めた。人間将棋は、豊臣秀吉が16世紀の末に伏見城(京都)で始めたとされる。江戸幕府を開いた徳川家康以下、歴代将軍は将棋を優遇した。愛知県が生んだ戦国三英傑の将棋の歴史を、聖地で藤井が受け継ぐ。
タイトル戦も天童市では過去に行われている。「そういった形で来られたら。貴重な経験を生かして頑張りたいです」。22年度の公式戦は、28日の叡王戦5番勝負から始まる。次に天童を訪れるとすれば、頂上対決の時だ。【赤塚辰浩】