知床遊覧船の事務所から段ボール箱を運び出す海上保安庁の職員ら(2日午後8時3分、北海道斜里町で)=松本拓也撮影
北海道・知床半島沖で乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故は、7日で発生から2週間となった。これまでに乗客14人が遺体で見つかったが、行方不明者12人の捜索が続く。運航会社「知床遊覧船」(北海道斜里町)のずさんな安全管理の実態も次第に明らかになってきており、地元の同業他社からは、桂田精一社長(58)や豊田徳幸船長(54)(行方不明)の経験不足を指摘する声が上がる。
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桂田社長らによると、豊田船長は2020年夏頃に入社した。他県で水上バスを運転していたが、複雑な海流や急激に変化する気象など、操船が難しい知床での経験はゼロ。それでも翌年には船長を任された。
桂田社長は記者会見で、短期間で船長に起用した理由について「(他の従業員から)すばらしいセンスがあると聞いた」と説明したが、同業他社の経営者は「3~4年以上の乗船経験をさせてからが通常だ」と判断を疑問視する。
経験の浅さをうかがわせる出来事もあった。別の同業者は昨年、豊田船長が操る小型船が港内で他の船舶と接触するのを目撃。「港から出るのに四苦八苦していた」と証言する。
沈没事故が起きた4月23日の朝は、同業他社の船長が「今日の午後は波が高くなるから出航はやめた方がいい」と忠告したが、豊田船長は「うん」と返事をしたものの、結局船を出した。忠告した船長は「知床の天候を理解していないのではないか」と感じたという。
民間信用調査会社などによると、宿泊業を営んでいた桂田社長が観光船事業に参入したのは16年。同業他社によると、海の仕事に携わった経験はほとんどなかったとみられる。
桂田社長は、海上運送法に基づく運航管理者として運航の可否を判断する立場だったが、記者会見では「豊田船長が出航可能と判断した」「船長に頼りすぎていた」と、責任転嫁するような発言を繰り返した。
また、行方不明の甲板員・曽山聖(あきら)さん(27)は4月に入社したばかりで、船員経験はなかった。知床遊覧船では20~21年、ベテランスタッフの退職が相次いでおり、元従業員は「人手不足で、素人同然のメンバーで運航せざるを得なかった」と明かす。