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【ソウル山口卓】韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は15日、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の式典で演説した。尹氏は「日本は、世界市民の自由を脅かす挑戦に立ち向かい、共に力を合わせていかなければならない隣人だ」と述べ、関係改善にあらためて意欲を示した。最大の懸案事項である元徴用工問題への直接的な言及はなかった。
【写真】「撤去した像を返せ」市民団体メンバーともみ合う警官隊=2019年
尹氏は元徴用工、元慰安婦問題を念頭に「韓日関係が普遍的価値を基盤に両国の未来と時代的使命に向かって進む時、歴史問題も解決できる」と主張。1998年に金大中(キムデジュン)大統領と小渕恵三首相(いずれも当時)が発表した「未来志向」「反省とおわび」をうたう日韓共同宣言を継承し「韓日関係を早期に回復、発展させる」と強調した。
さらに「両国政府と国民が互いに尊重しながら経済、安保、社会、文化にわたる幅広い協力を通じて国際社会の平和と繁栄に共に寄与しなければならない」とも語った。
北朝鮮の非核化については、世界の持続可能な平和に欠かせないと指摘した上で、「北朝鮮が核開発を中断し、実質的な非核化に転換するなら、その段階に合わせて北朝鮮の経済と民生を画期的に改善できる大胆な構想を今この場で提案する」と呼びかけた。
5月に就任した尹氏の光復節演説は初めて。
資産売却命令、週内に確定も
韓国の尹錫悦大統領は15日の光復節の演説で、日韓関係の最大の懸案事項である元徴用工問題について具体的に言及しなかった。尹氏が解決案を探るために立ち上げた官民協議会が難航していることが背景にある。早ければ今週にも日本企業に対する資産の売却命令が確定するとの見方もあり、タイムリミットが迫る。尹氏は「韓日関係を早く回復させる」と意欲を語ったが、元徴用工問題が大きな壁として立ちはだかっている。
「韓日関係が両国の未来と時代的使命に向かって進む時、歴史問題は解決できる」。尹氏は演説で歴史問題について、曖昧な表現にとどめた。
元徴用工問題を巡っては、韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた判決が2018年に確定。昨年9月以降、日本企業の韓国内資産の売却(現金化)命令が相次いで出され、抗告手続きで対抗している。韓国外務省は、早ければ今月19日までに最高裁が再抗告を棄却し、三菱重工業の資産売却命令が確定する可能性があると指摘している。
官民協議会は今月9日に3回目の会合を開いたが、日本側に求める謝罪方法や交渉の在り方に不満を募らせた原告側代理人、支援団体などが欠席。原告側が全く参加しない形となり、会合は形骸化しつつある。
また、尹徳敏(ユンドクミン)駐日大使が8日、東京都内での韓国メディアとの会見で、現金化を「凍結するのが良い」と発言したことにも原告側は反発。支援団体「民族問題研究所」は、「尹政権は日本政府の顔色をうかがい、屈辱外交に汲々(きゅうきゅう)となっている。尹政権下では被害者中心の問題解決は期待できない」として尹大使の辞任を求めている。
尹大統領の支持率は一部の世論調査で30%を下回る結果も出ており、問題解決に向けて毅然(きぜん)とした態度を取ることが難しい情勢となっている。