あちこちで石造りの家が砂に埋まっていた。モーリタニア中部シンゲッティ。1000年以上前から交易拠点として発展し、世界文化遺産に登録される古都が、砂漠にのみ込まれようとしている。
【地図】サハラ砂漠の南で進む巨大な緑の壁
温暖化、欧米排出のツケ

砂漠が拡大を続け、砂に埋まった家(7月31日、モーリタニア中部シンゲッティで)
「もうすぐ街は消えるかもしれない」。旧市街のはずれにある自宅の壁を補修していたサレム・ユマさん(49)が漏らした。横では、2メートル以上積もった砂を親戚の若者がかき出していた。
周辺地域を含む人口は約5000人。10年ほどで半分以下になった。大きな要因は砂漠の拡大だ。今年6月までの11年間、雨は降らなかった。ナツメヤシの植樹などによる対策も追いつかず、住民は次々と家を捨てて街を離れた。
アフリカ北部のサハラ砂漠はこの100年で10%広がった。木々の過剰伐採に加え、気候変動が要因の一つとされる。
シンゲッティでも砂の勢いは年々増している。ユマさんは不安を募らせる。「生まれ故郷だから住み続けたい。でも、砂との闘いに勝てるだろうか」
緑の壁
モーリタニア南部ロッソ郊外では、乾燥に強く、砂地でも育つ木の苗木が10ヘクタールにわたり植えられていた。
農家のベケイ・ムハンマドさん(45)は「砂地がどんどん村に迫っていた。もっと木が増えて、早く安心できるようになれば」と話す。
サハラ砂漠の拡大を食い止めるため、モーリタニアを含む計11か国は2007年から、植樹などで約8000キロ・メートルにわたって「巨大な緑の壁」を築く事業を始め、30年までに1億ヘクタールの植生回復を目指す。
アフリカの二酸化炭素(CO2)排出量は、世界全体の4%程度にすぎない。だが、干ばつや洪水などの影響は甚大だ。アジアや欧米が排出するCO2のツケを支払わされている形だ。
世界銀行の21年の報告書によると、気候変動により、50年までに世界で2億1600万人が国内移住を強いられる恐れがある。アフリカは1億500万人とほぼ半数を占める。難民の増加や新たな紛争の引き金となることも懸念される。