現場検証が行われた梨泰院の事故現場(31日午後、ソウルで)=伊藤紘二撮影
【ソウル=溝田拓士】日本人2人を含む154人が犠牲になったソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)での雑踏事故で、韓国警察は10月31日、原因究明に向け、防犯カメラの映像や目撃証言を集めるなど捜査を本格化させた。
警察は29日夜の事故発生を受けて475人態勢の捜査本部を設置した。31日午後には、国立科学捜査研究院と合同で、現場となった幅3・2メートル、長さ約40メートルの緩やかな坂道の現場検証を行った。事故状況を立体的に再現できるよう、道路を計測したり、道路脇の店内を写真に撮るなどしていた。
事故の前後や当時の状況を把握するため、現場付近の防犯カメラやSNSに投稿された映像の確保や、目撃者の聴取も進めている。警察は今回の捜査で集めた証拠の分析を他の事件捜査よりも優先しているという。
事故は、梨泰院の目抜き通りと上手の路地を垂直に結ぶ坂道で発生した。満員電車ほど混雑した路地から、同様に混んだ坂道に人が流れ込んでいく中で、誰かが転び、周囲の人も折り重なるように倒れたとみられている。事故当日、梨泰院地区には10万人以上の人出があったとされ、坂道にも1000人以上が集まっていたとの見方もある。
韓国紙・文化日報などは警察関係者の情報として、坂の中間付近のわずか約18平方メートルに300人以上が折り重なり、死傷者が最も集中したと伝えた。この場所では「六~七重に人が折り重なった」という。
韓国メディアによれば、「立ったまま周囲から強い圧力を加えられ、そのまま気を失った」との証言も出ている。
今後の捜査の焦点の一つが、意図的に押した者がいたかどうかだ。
インターネット上に公開された事故当時の現場付近の映像では「押せ、押せ」「後ろへ、後ろへ」と叫ぶ複数の声が確認できる。現場にいた人や目撃者からも「誰かが押した」との証言が多数出ている。
しかし、現場の映像では街灯が当たっていない場所も多く、声の主を特定するのは困難との見方もある。