
(写真:読売新聞)
【ソウル=中川孝之】韓国軍合同参謀本部によると、北朝鮮が2日午前、少なくとも10発のミサイルを日本海と黄海方向に発射した。このうち短距離弾道ミサイル1発は、日本海上の南北境界線にあたる北方限界線(NLL)の南側の公海上に着弾した。韓国軍によると、北朝鮮の弾道ミサイルがNLLを越えて領海近くに落ちるのは初めて。韓国軍は警戒態勢を引き上げた。
北朝鮮の弾道ミサイル発射は10月28日以来。巡航ミサイルも含めれば今年29回目となる。
韓国軍の発表によれば、午前8時51分頃に北朝鮮東部の江原道(カンウォンド)元山(ウォンサン)付近から日本海に向けて発射された1発が、NLLの南方約26キロ・メートルの海上に落下した。韓国東部の江原道束草(ソクチョ)の東方約57キロ・メートル、慶尚北道(キョンサンプクト)鬱陵島(ウルルンド)の北西約167キロ・メートルの位置だという。
防衛省は、北朝鮮が発射した弾道ミサイルを「少なくとも2発」と発表した。1発目は最高高度が約150キロ・メートル、飛行距離は約150キロ・メートルで、2発目は最高高度約100キロ・メートル、飛行距離約200キロ・メートル。変則軌道で飛行した可能性があり、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下した。
弾道ミサイル発射直後の午前8時55分頃、鬱陵島では空襲警報が発令され、韓国のニュース専門テレビなどに警告の字幕が流れた。島内では住民らが地下施設に一時退避した。
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は国家安全保障会議(NSC)を招集し、北朝鮮のミサイルがNLLを越えるのは「南北分断後で初めて」だと指摘し、「実質的な領土侵犯行為だ」と非難。厳正な対応を取るよう指示した。韓国軍合同参謀本部の作戦本部長は「わが国の領海近くに落下し、決して容認できない」と述べた。
米韓両軍は10月31日から、戦闘機など約240機を投入する大規模合同訓練を韓国上空などで実施中だ。北朝鮮はこの訓練への対抗措置を口実に、ミサイル発射を強行したとみられる。朝鮮中央通信によると、北朝鮮で軍総参謀長を務めた朴正天(パクジョンチョン)朝鮮労働党書記は1日、訓練に反発する談話を発表していた。
日本政府は北京の大使館ルートで抗議した。岸田首相は2日午前、首相官邸で記者団に「これまでにない高い頻度でミサイルの発射が繰り返されている。断じて容認することはできない」と強く非難した。この後、NSC4大臣会合を開催し、今後の対応を確認した。