ドイツに住むロシア人、「プーチンの戦争」をどう思っているのか
ヴィタリー・シェフチェンコ、BBCモニタリング(ベルリン)
かねて欧州各地で暮らしてきたロシア人のコミュニティーは、ウクライナでの戦争によって分断されてしまった。その対立が今月9日、ベルリンで表面化しそうになった。第2次世界大戦でソ連がナチス・ドイツを下した「戦勝記念日」の式典でのことだ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに仕掛けた全面的な侵略戦争を正当化するため、繰り返し繰り返し、1945年にいかにソ連がナチスのファシズムを打倒したか強調し、それを今の戦争になぞらえてきた。それだけに、ウクライナ戦争の開始から1年以上が過ぎた現在、ドイツ・ベルリンで、第2次世界大戦の話題は避けようもない。
ドイツに住むロシア人の多くは明らかに、プーチン大統領の主張する開戦理由を信じている。ベルリン在住のロシア人の中には、ロシア国営テレビが繰り返す言い分とほとんど同じことを口にする。しかしその一方で、同じくらい声高に、ロシアの公式見解に反対するロシア人もいる。
■ドイツ在住のロシア人は
ベルリンでの式典は5月8日に始まった。ドイツがファシズムから解放されて78周年を記念するもので、トレプトウ公園のソ連戦争記念碑にはロシア人が三々五々、訪れていた。
そのうちの1人のアレクサンデルさんはロシア出身で、ドイツには20年以上暮らしている。ロシア軍は「ドンバス、クリミア、ヘルソン、オデーサをファシストから守っている」のだと、ウクライナ南東部の地名を列挙した。
ドイツ在住ロシア人のアンナさんも、ウクライナ南東部の各地は「ロシアのもの! ロシアは自分たちのものを取り返している」のだと話した。
そこでアレクサンデルさんは私に、プーチン大統領の写真を張り付けて飾ったタバコ入れなどを見せてくれた。
しかし、ドイツに住むロシア語話者にとって最も大事なのは、8日ではなく9日の式典だった。ロシアでは「戦勝記念日」と呼ばれる、大事な日だ。
ベルリンの式典ではまず、ロシア大使がトレプトウ公園に立つ、堂々たるソ連兵の像に花輪をささげた。それを見に集まったほとんどの人は、ロシア政府の政策や主張を支持していた。
そうした1人の若いロシア人女性エフゲニアさんは、「西側全体、とりわけアメリカ」がウクライナでネオ・ナチズムの炎をあおっているのだと私に話した。
エフゲニアさんは、聖ゲオルギー・リボンを身に着けていた。これは、ロシア政府のお墨付きを得て、ウクライナで戦うロシア兵が好んで着用するものだ。この日のベルリンでの集会で、彼女は友人とソ連の国旗を掲げていた。ロシア国旗の掲示は禁止されているからだ。
しかし、こうした考え方に全員が賛同するわけではない。
トレプトウ公園の反対側には、「子供たちの死を悲しむ母なるロシア」の像がある。ウクライナでロシアは「ファシスト」と戦っているのだというプーチン大統領の主張を支持することなく、ファシズムの犠牲者を追悼したいと考える人たちは、ここに集まっていた。
そして、その大勢がロシア人だった。キリルさんは昨年10月にロシアを脱出したのだと、私に話した。徴兵されてウクライナに送り込まれるのを避けるためだったという。
「プーチンのために人殺しになどなりたくなかった。テレビで聞かされるうそを、僕は信じていない」
「とても怖かったけど、反戦集会に参加していた。自分にできるだけのことはしていた」
ロシアの政治犯に関するポスターを横に、キリルさんはこう言った。
サンクトペテルブルクで反戦集会に参加したのを理由に逮捕され、罰金を科せられ、殴られた後、キリルさんはロシアを逃れたという。
トレプトウ公園のこの一角にいた若いロシア人活動家、アレクサンドラさんは、プーチン大統領が戦勝記念日をプロパガンダの道具にしてしまったと考えている。「私たちにとっては、まったくひどすぎる冒涜(ぼうとく)だ」。
友人のエカテリーナさんも同意した。「ロシア人のみんながみんな、ウクライナで起きていることを支持しているわけではないし、この記念日がこういう意味を持つようになってしまったことを支持しているわけでもないと、こうやって示すのが私には大事なこと」なのだと。
「この日が今のように取り上げられるようになったこと。それこそ、この戦争が昨年の2月24日に始まった大きな理由の一つだ」と、エカテリーナさんは話した。
5月9日の戦勝記念日にベルリンのロシア人たちはトレプトウ公園のほかに、ブランデンブルク門にも集まる。「不滅の連隊」と呼ばれる行進に、数十人が参加した。
こうした行進はクレムリン(ロシア大統領府)に奨励されて行われるものだが、ベルリンでの今回の行進はトレプトウ公園でのイベントに比べるとあからさまな政治色は控えめだった。ロシア人数十人が第2次世界大戦で戦った先祖の遺影を抱えて、厳粛な面持ちで歩いていた。
反戦派のロシア人グループが、戦勝記念日をプロパガンダの道具にすることに抗議していたものの、聖ゲオルギー・リボンやソ連国旗を掲げるグループのイベントのほうが、参加人数は上回っていた。
■ドイツ人はどう思っている?
それでは、ドイツに住むドイツ人はどう思っているのか。
ありとあらゆる意見を聞いた。多くの人が5月8日から9日にかけてトレプトウ公園を訪れ、ファシズムからドイツを解放してくれたとソ連軍に感謝していた。現在の状況はそれに比べれば気にならないという人もいた。
「プーチンがいまウクライナで何をしているかはともかくとして、(ロシアがドイツを解放した)事実は変わらない」と、ウォルフガングさんは私に話した。
プラカードを手にしていたドイツ人のクリスティナさんは、ウクライナの「ファシスト政権」に西側諸国が武器を提供していることに抗議していた。
一方で、若い男性のヤネクさんは、ソ連がナチスを倒した過去をプーチン大統領が外交の道具にしているのは「恥ずべきこと」だと批判した。
「ウクライナにいるナチスからウクライナを解放したいんだなんて言うけど、そんなのはまったく事実と異なる。プロパガンダだ」と、ヤネクさんは述べた。
(英語記事 Ukraine war: Russians in Germany split over Putin’s invasion)
(c) BBC News