「外国人を見かけたらとりあえずバンカケ(職務質問)しろ、というのが県警では当たり前だった」
関東地方の警察を数年前に退職した元幹部のNさんは、ハフポスト日本版の取材にそう証言する。
「人種」や肌の色、国籍、民族的出身などを基に、個人を捜査活動の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりする警察らの慣行は「レイシャル・プロファイリング」と呼ばれる。
日本のレイシャル・プロファイリングの違法性を巡って国家賠償請求訴訟が始まっているほか、ハフポスト日本版のアンケートや東京弁護士会の調査でも、外国にルーツのある人たちに対する、肌の色や「外国人風」の見た目を理由とした差別的な職務質問の実態が明るみになっている。
レイシャル・プロファイリングが行われる背景に、何があるのか。
外国人に声をかける「最大の目的」
職務質問を主に担う地域課所属の「お巡りさん」ではなく、定年までのほとんどのキャリアを刑事課で積み上げてきたNさん。
自身が市民に職務質問する機会は多くなかったが、退職までの数年間に配属された警察署の幹部時代には、他の幹部たちが朝礼や毎月の訓示で、外国人を見かけたら職務質問するよう警察官たちに指示しているのを度々聞いたという。
「所轄では、特にベトナムやタイ、フィリピンの人には徹底してバンカケするよう指示していた。外国人取り締まり月間や職務質問の強化月間に加えて、強化月間前の『準備月間』も毎年あり、ある幹部は外国人を日本人と『区別』するようにと伝えていた」
職務質問は、警察官が好き勝手に誰に対してもおこなっていいものではない。
どのような場合に職務質問できるのか?職務質問の法的根拠である警察官職務執行法(警職法)第2条1項は、次のように定めている。
第2条1項
<警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる>
つまり、「人種」や肌の色、「外国人風」の見た目のみを理由とした職務質問は、法律上の要件を満たしていない。
だがNさんは「外国人への職務質問では、(警職法が定める)『異常な挙動』や『周囲の事情』なんていうのは一切関係ない」と言い切る。どういうことなのか。
「『外国人』を狙って職務質問する最大の目的は、警察署管内にいる全ての外国人の個人情報を把握すること。
地域課の警察官は、職務質問の時に在留カードを確認して終わりではなく、外国人の個人情報を集めて、警備課に報告していた。警備課は、管内で生活する外国人が誰とどこに住んでいて、どこで働いているかという情報がほしい。勤務先がわかり、さらに新たなヤード(※)が判明すると、それが警備課の『点数』になる。
警備課としては、外国人の不法就労やオーバーステイ(超過滞在)を検挙することよりも、管内にいる外国人の就労場所を把握することが実績になり、評価される。だから職務質問する時に異常な挙動も周囲の事情も関係なく、外国人を見かけたら誰でも声をかけ、情報を集めるよう現場の警察官に指示していた」
なぜ外国人の就労先や居住情報を集めるのか。
Nさんは、「外国人は何らかの犯罪に関わっているという前提があるのと、外国人に絡む犯罪が起きたときにすぐに手を打ちやすいようにするため」だと話す。「要は『あいつらは何かやるから、現場はそのための事前準備をしておけよ』ということ」。
(※)車両の解体・保管場所のこと。外国人が経営するヤードは多い。一部のヤードが、盗難車の解体や保管に利用されるなどの実態がある。