「任せる先がない…」
日の出前、職員室はひっそりしている。「この時間は電話を受けなくていいので、仕事がはかどる」。長野県の東北信地方の公立小学校に勤める50代の男性教頭にとって、前日に終わらなかった業務や校内の見回りなどができる貴重な時間だ。
始業時間になると「水道水が出ない」といったトラブルがある。欠席した教員の授業を代行し、保護者の電話に出て、職員研修の準備をし、配布物を印刷、子どものもめ事に対応する。県や市町村の教育委員会から届く各種調査の回答期限が近づくが、ほとんど手が付かない。
地域住民や保護者との窓口となる教頭の業務は「ほかに任せる先がない」という。1日の勤務時間は14時間を超えることもある。その間、給食を5分で食べ終え、休憩はないに等しい。
超勤時間110時間、「過労死ライン超え」
県内小中学校の校長や教頭らでつくる「県校長教頭組合」によると、教頭や副校長の1カ月の超過勤務時間は約110時間に上り、「過労死ライン」とされる80時間を大幅に超えている。同組合は、報告書や各種調査など負担が大きい事務処理の削減が必要―と訴える。
やりがいはあるが…
中教審は教頭の業務が肥大化していると指摘し、答申では本年度に導入した教頭の業務を補助する「マネジメント支援員」を拡充する必要性を挙げた。県教委によると、県内では本年度、小中・特別支援学校に計28人を配置。文書作成や教職員の勤務管理、校内巡視などを支援しているが、圧倒的に足りていない。
「職員室の担任」苦しい…それでも耐えるのは
教頭は「職員室の担任」と呼ばれ、教職員が働きやすい環境をつくることも大きな役割だ。堅実な学校運営を求める校長と、働き方の改善を訴える後輩教員との「板挟み」になることもある。
東北信の男性教頭は「今の仕事はやりがいはあるが苦しい」と下を向く。校長になったら、教職員が挑戦したいことを後押しできる学校にしたい―。そう思い描くことが、心も体もつらい現実に耐える力になっている。