不治の病に苦しむ妻を殺害した夫、無罪判決—フランスの尊厳死法制に一石

フランスで、不治の病に苦しむ妻を殺害したとして起訴された78歳の男性に無罪判決が言い渡され、フランスにおける尊厳死の是非をめぐる議論が再燃しています。本記事では、この事件の詳細とフランスの尊厳死法制の現状、そして今後の展望について解説します。

妻の懇願と夫の苦悩

2021年10月、北部トロワに住む元工学教師のベルナール・パロ被告(78)は、耐え難い苦痛に苛まれる妻スザンヌさんの懇願を受け、死を手助けしたとして逮捕されました。検察側は、パロ被告がシアン化物注射を試みた後、電気ケーブルで絞殺したとして禁錮8年を求刑しました。しかし、裁判所はパロ被告に無罪判決を下しました。

altalt高齢者介護施設の一室。尊厳死の選択は、高齢化社会における重要な課題となっている。(資料写真)

パロ被告は、妻を「苦しませたくない」一心で行動したと供述。シアン化物が効かなかったため、苦渋の決断で電気ケーブルを使用したと説明し、「方法としては野蛮に思えるかもしれないが、他に選択肢がなかった」と語っています。警察は現場で、スザンヌさん自身の手で書かれた遺書を発見。「耐えがたい不治の苦しみから解放してほしい」と、夫への懇願が綴られていました。

フランスにおける尊厳死の現状

フランスでは、重病患者が他者の助けを得て行う安楽死は違法とされています。今年、フランス議会では尊厳死法案が審議されましたが、結論には至っていません。パロ被告の無罪判決を受け、改めて法整備の必要性が問われています。

専門家の意見

医療倫理の専門家、マリー・デュボア氏(仮名)は、「この判決は、現行法の限界を浮き彫りにしたと言えるでしょう。患者の自己決定権と、医療従事者の倫理的責任のバランスをどう取るか、難しい問題です」と指摘しています。

今後の展望

エマニュエル・マクロン大統領は今年3月、「人道的に受け入れ難い状況がある」として、終末期医療に関する法整備の必要性を訴えました。今回の判決は、フランス社会に大きな波紋を広げ、尊厳死をめぐる議論を加速させる契機となるでしょう。パロ被告自身も、「今回の裁判は現行法が不十分なことを示している。法律を絶対に変える必要がある」と訴えています。

まとめ

不治の病に苦しむ妻を殺害した夫への無罪判決は、フランス社会に大きな衝撃を与えました。尊厳死の合法化を求める声が高まる一方で、生命の尊厳を守る立場からの反対意見も根強く、今後の法整備に向けた議論は、困難を極めることが予想されます。