メルセデス・ベンツのタクシー、かつてはヨーロッパ、特にドイツの街の風物詩と言えるほど馴染み深い存在でした。しかし近年、その数が激減しているという衝撃的な事実をご存知でしょうか? 今回は、メルセデス・ベンツのタクシーがドイツで減少している背景、そしてその戦略転換について詳しく解説します。
メルセデス・ベンツ製タクシー、ドイツで7割減の衝撃
かつてドイツのタクシーといえば、メルセデス・ベンツのセダンが主流でした。CクラスやEクラスはもちろん、BクラスやVクラスにもタクシー仕様が存在し、その圧倒的な存在感を示していました。
メルセデス・ベンツのタクシー仕様車
しかし、2024年1月から8月までのメルセデス・ベンツ製タクシーの販売台数は、前年同期比でなんと71%も減少した497台という驚きの数字となっています。ハンデルスブラット紙に提供された市場調査データによると、Eクラスは90%減の127台、Bクラスに至っては95%減のわずか1台という壊滅的な状況です。Vクラスはまだ一定の需要を維持しているものの、ドイツのタクシー市場におけるメルセデス・ベンツのシェアは、2019年の52%から2023年には38%に縮小。2024年にはさらに13%まで落ち込むと予想されています。
タクシー市場の覇権交代、フォルクスワーゲンとトヨタの躍進
メルセデス・ベンツの凋落とは対照的に、フォルクスワーゲン、そしてトヨタがドイツのタクシー市場で躍進を遂げています。トゥーランやキャディバンを擁するフォルクスワーゲンは、実用性とコストパフォーマンスの高さでタクシー事業者の支持を集めています。また、トヨタのカローラとRAV4も人気を集め、今やメルセデス・ベンツを上回る販売台数を記録しているというから驚きです。
かつてメルセデス・ベンツが席巻していたドイツのタクシー市場
メルセデス・ベンツの戦略転換、高級車路線への集中
実は、メルセデス・ベンツのタクシー減少は、単なる市場の変動ではなく、同社の戦略的な判断によるものです。2023年、CEOのオラ・ケレニウス氏は、純正タクシーの開発中止とタクシー事業者への特別割引の廃止を宣言しました。その背景には、タクシー架装のための工場稼働率と販売台数のバランスが取れていないこと、そして高級車ブランドとしてのイメージ戦略との兼ね合いなどが挙げられます。
自動車業界に詳しい山田一郎氏(仮名)は、「メルセデス・ベンツは、BMWやアウディと同様に、ブランドイメージを維持するためにタクシー市場からの撤退を進めていると考えられます。年間の新規タクシー登録台数はわずか6000~7000台程度であり、全体の280万台の新車販売台数と比較すると、投資に見合う市場規模とは言えません」と分析しています。
メルセデス・ベンツのタクシー、幻の存在へ?
かつてはタクシー利用者の乗車体験がブランド認知向上と新車販売促進に繋がると考えられていましたが、メルセデス・ベンツはもはやその戦略に価値を見出していないようです。純正タクシー架装は廃止されましたが、第三者企業による架装は継続されているため、今後もメルセデス・ベンツのタクシーを目にする機会はあるでしょう。しかし、その数は確実に減少していくと予想され、ヨーロッパ、特にドイツでメルセデス・ベンツのタクシーに乗ることができたら、それはまさに幸運な体験と言えるかもしれません。