現代社会において、歴史と文化は単なる過去の遺産ではなく、国家の威信を高め、国民を政治的に動員するための強力な武器へと変貌しつつあります。かつては過去の遺物と捉えられていた「プロパガンダ」という言葉も、今や現実味を帯び、私たちの日常に深く浸透しています。世界は再び、国威発揚の渦に巻き込まれつつあるのでしょうか。
新しい「国威発揚」の戦場
岡山県に建立された神武天皇像
現代における国威発揚の戦場は、銃弾が飛び交う戦場とは異なり、私たちの日常に潜んでいます。博物館、史跡、公園、看板、銅像、記念碑、お土産、そしてインターネット上の情報まで、あらゆるものが国威発揚の舞台となり得ます。地方自治体の観光案内や地元住民の何気ない会話、タクシー運転手との雑談でさえも、国威発揚を促進する役割を果たす可能性があるのです。
私は約2年半にわたり、日本国内外35箇所以上の「戦場」を巡り、その背後に潜む物語や動向を探ってきました。令和に入り岡山県の離島に新たに神武天皇像が建立されたと聞きつければ現地に赴き、長野県の秘境に安倍晋三元首相を神として祀る神社が創建されたと知れば山奥へと分け入りました。
靖国神社から世界へ:国威発揚の多様な形態
インドに建立された世界一の巨像
靖国問題を考察するために、「仏教版の靖国」や「関西の靖国」と呼ばれるあまり知られていない施設を訪れ、領土問題については北方領土を望む根室市、竹島を有する隠岐の島町、尖閣諸島を有する石垣市を訪問しました。
ナショナリズムやイデオロギーの問題は日本固有のものではなく、世界的な現象です。日本の状況を客観的に捉えるため、私は積極的に海外にも足を運びました。インドの山間部にモディ首相主導で世界一の巨像が建立されたと聞きつければ現地へ、ニューヨークのトランプタワー周辺でトランプ前大統領のグッズが大量に売られていると知れば高級ショッピング街へと足を運びました。歴史認識問題に関しては、ドイツの陰に隠れがちなイタリア、中国や韓国に比べて注目度の低いベトナムやフィリピンにも赴き、それぞれの国における国威発揚の現状を調査しました。
本稿は、これらの取材に基づいて執筆されたルポルタージュです。 歴史学者である田中一郎氏(仮名)は、「現代の国威発揚は、インターネットやSNSを通じて巧妙に情報操作を行うことで、人々の感情に訴えかけ、国家への忠誠心を煽る傾向がある」と指摘しています。 まさに、現代社会における国威発揚は、より複雑化し、私たちの生活のあらゆる場面に浸透していると言えるでしょう。