静岡県にプロ野球も開催可能な大型野球場を建設する構想が、スズキ相談役・鈴木修氏の死去、そして川勝平太前知事の辞任という波乱の中で、事実上頓挫しました。この記事では、構想の始まりから頓挫に至るまでの経緯、そして残された課題について詳しく解説します。
鈴木修氏の夢、そして浜松市への誘致
鈴木修氏は、浜松市への大型野球場建設を長年熱望していました。2014年には当時の鈴木康友浜松市長に県への陳情を要請し、県と市の共同建設方式で計画がスタート。スズキ自身も5億円を寄付するなど、その実現に強い意欲を見せていました。当初の計画では、スズキのための陸上競技場整備も含まれていると言われていました。
鈴木修相談役(享年94歳)
アカウミガメと津波、立ちはだかる壁
しかし、計画は順調に進みませんでした。建設予定地は南海トラフ巨大地震の津波浸水想定区域である遠州浜海岸。そこは、絶滅危惧種アカウミガメの産卵地としても世界的に知られています。市民団体やNPO法人からは「人命軽視」との批判や計画への反対の声が上がり、風や砂ぼこりが強い遠州浜海岸は野球に適さないという意見も多数寄せられました。
アカウミガメの産卵地、遠州浜海岸
ウミガメ保護団体からの反対
特に、ウミガメ保護団体「サンクチュアリジャパン」は、球場照明によるウミガメへの影響を強く懸念。県は調査を実施しましたが、馬塚丈司理事長は「どんな調査をしても無駄。野球場建設はウミガメの生態系に必ず影響を与える」と、建設に絶対反対の姿勢を表明しました。
ドーム球場構想と川勝前知事の翻弄
反対の声にもかかわらず、鈴木氏は2022年8月、2万2千人収容の全天候型ドーム球場建設を川勝前知事に要望。川勝前知事は「風や照明の影響も問題ない」と、ドーム球場案を支持しました。浜松市も「新野球場建設促進期成同盟会」を設立し、ドーム球場建設を推進しようとしましたが、県議会からは「税金の私物化」との批判が噴出。川勝前知事も強引に進めることができませんでした。
辞任による計画の頓挫
その後、川勝前知事は不信任決議可決を受け辞任。大型野球場建設計画は、PFI方式による3つの案(1万3千人収容の屋外型、2万2千人収容の屋外型、2万2千人収容の多目的ドーム型)を基本計画に盛り込んだ段階で、事実上頓挫しました。皮肉にも、防災機能を強調していた川勝前知事自身も、最終的な基本計画には防災機能を盛り込むことができませんでした。
残された課題と今後の展望
520億円規模の巨大プロジェクトは、鈴木氏の死去、川勝前知事の辞任、そして様々な反対意見の中で立ち消えとなりました。津波浸水想定区域という立地条件、ウミガメへの環境影響、巨額の建設費用など、解決すべき課題は山積みです。今後の静岡県のスポーツ振興、そして地域活性化にとって、この計画の頓挫がどのような影響を与えるのか、引き続き注目していく必要があります。