〈女性バスガイドの下着を「酔った消防団員」が無理やり…バスガイドを困らせる「ヤバいツアー客」警察にも相談できなかったワケ〉 から続く
【まるみえ…】乱暴なツアー客にブラジャーを奪われて涙「悲劇の女性バスガイド」
もしバスツアーのお客さんが旅先で「万引き」を働いたらどうすればいいのか…? 実際にあった事件のその後を、現役添乗員かつ作家の梅村達氏の新刊『 旅行業界ぶっちゃけ話 日雇い添乗員が見た懲りない人々 』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)
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日帰りツアー中に「万引き」を働いた60代女性
その女性は60代で、一人参加であった。おとなしそうな雰囲気の人で、バス内ではたいていポカンと外を見ていたのだった。
その日は東京出発の茨城に行く日帰りツアーであった。鉾田でメロン食べ放題、ひたちなか市の那珂湊で海産物の買い物と海鮮丼のランチ、そして国営ひたち海浜公園でバラ見学というスケジュールが組まれていた。
まずは鉾田でメロンを召し上がっていただいた。農園には参加者たちのために4分の1に切ったメロンがわんさか置いてある。参加者はむしゃぶりついていた。
いつも思うのであるが、食べ放題となると人が変わったようになるのだ、通常ならメロン4分の1で十分なはずなのにね。私はひと切れだけいただいた。けっこう甘くて美味しいよ。
そうして参加者たちは続々と満足そうな笑みを浮かべてバスに戻ってくる。全員がそろったところでバスは出発である。
次は那珂湊の市場で海産物の買い物である。時間は40分のフリータイム。店の前から自由行動だ。
事件はここで起きた。私が店の休憩室でコーヒーを飲んでいると、スタッフが険しい顔で、「ちょっと来てくれ」とのこと。何だと思って、あとについていってみる。すると鬼のような顔をした店主が待っているではないの。
その前にはうちのツアーの例の一人参加の女性が萎縮した態でかしこまっている。50代と思われる体格のいい店主は私を見ると、「この人が万引きしようとしたんだ」と、がなり立てるのであった。
例の女性はますます身体を小さくしている。店主は「警察に通報するぞ」と脅すのであった。私は「ちょっと待ってください」と言った。そして、すぐさま旅行会社に連絡を取った。私の電話に担当者もびっくりしたようである。
やがて電話を代わった店主と担当者が長々と話し込む。そして店主がどうやら納得したようで、私と代わった。
担当者が言うには、店主と話をつけたので謝ってくれとのこと。そして以降は例の客はバスでは私の隣に座らせること、行動を必ず見守ることを告げられた。
店主に謝ってから店を出てバスに戻る。もう15分ほど出発時間を過ぎていた。ドライバー、参加者たちは皆、不審の目で私たち2人を見守っていた。
私は、「ちょっとしたトラブルがあり、出発が遅れてしまいました。まことに申し訳ありませんでした」とマイクを使って参加者に説明した。
担当者の指示通り、女性は私の隣に腰かけてもらうことにした。女性は萎えてしまい、見る影もなかった。ほかの参加者たちもシーンとしている。女性のしょげた姿を見れば、だいたいのことはわかったのではあるまいか。
けれども次の海鮮丼のランチで、ステージはくっきり変わる。ほかの参加者はムシャムシャ食べ始めた。当たり前だよ。彼ら、彼女らには何ごともなかったのだから。
ただし例の女性は下を向いたきり丼を食べようともしなかった。当たり前だよね。当然、食欲もないだろう。
私も業務用の食事ルームで昼食を摂った。この時にドライバーに聞かれましたよ。「彼女に何があったのか」と。私は今までのことを伝えた。