チョコレートの原料となるカカオ豆の世界有数の生産国である西アフリカ・ガーナで異変が起きている。生産が盛んな西部モセアソを訪れると、うっそうと茂る熱帯林を背にショベルカーがうなりを上げて畑を掘り返していた。隣国のコートジボワールに次いで世界シェア2位を誇ってきたガーナだが、ピーク時に比べると生産量はほぼ半減した。農家たちはなぜ生活の糧としてきたカカオの木を手放したのか。
生産量の減少は世界的な価格上昇をもたらし、2024年の国際価格は2023年の約4倍に高騰。約1万3千キロ離れた日本はカカオ輸入の7割強をガーナに依存してきており、人気チョコ商品の中には1年に2回値上げされたものもある。バレンタイン商戦が本格化する中、長年世界のチョコ市場を支えているガーナで起きた異変の実態を探った。(共同通信ナイロビ支局長 森脇江介)
※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
▽気候変動に病害…でもそれだけではなかった
アフリカ西岸で大西洋に面するガーナは人口約3400万人。植民地時代に南米原産で熱帯地方に生育するカカオが持ち込まれ、小規模農家を中心に現金収入を得る一大産業となった。農民たちの間では「カカオの木を植えれば子どもの教育費を賄うことができる」とされた反面、児童労働による栽培もたびたび問題視されてきた。
ガーナにおける生産減は複数の要因で生じている。気候変動の影響によるとみられる天候不順や病害のまん延に加え、木の高齢化で1本当たりの収穫量が落ちたことも足かせとなってきた。そしてもう一つ、カカオ畑の下に眠る潤沢な希少鉱物が農地の破壊を招いている。
▽泥だらけの少年たちが血眼で探すもの
2024年6月、首都アクラから西に車で約400キロの距離にあるモセアソを目指した。海沿いの幹線道路から内陸に入ると、熱帯林の合間に次々とカカオ畑が現れる。時に未舗装路をゆられながら13時間。到着した頃にはあたりは真っ暗になっていた。
翌日、地元の農家の畑を訪れた。カカオ豆はカカオの木の果実に含まれる種子で、発酵した豆を乾燥させてローストしたものからチョコができる。発酵前の種子を包む白い果肉を口に含むと、チョコとは似ても似つかない熱帯の果物のような甘い味がした。
ふと顔を見上げると、畑の向こうで泥だらけの若者たちが一心不乱に土を掘り返している。「金を掘っているのさ」。案内してくれた地元農家のマシュー・ヌタさん(68)が教えてくれた。かつて畑だった場所が、採掘で次々に掘り返されているという。別の採掘現場でも重機が稼働し、灰色に濁った水に膝まで漬かった少年が血眼になって鉱石を選別していた。
▽謎の中国人男性、横行する違法採掘