女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。長年にわたり摂食障害に苦しんできた一人の女性が、自身の経験を語った。彼女は「過食嘔吐」との長い闘いを経て、いま変化の兆しを感じている。
過食嘔吐や摂食障害に悩む女性の心の葛藤を示すイメージ画像
桃奈さん(31歳/仮名)は、16歳の頃から「食べて吐く」という過食嘔吐を繰り返してきた。その習慣は15年間続き、彼女の人生に深く根ざしていた。しかし、ここ数カ月で、その状況に変化が訪れ始めたという。これまでの彼女は、過食嘔吐を治したいという気持ちはありながらも、「後ろ髪を引かれる」「手放すのが怖い」といった複雑な感情に囚われていた。何日か過食をしないと、人が変わったように落ち着かなくなることもあった。だが、ようやく「できることはやろう」という前向きな気持ちになれているところだと語る。
現在、桃奈さんは摂食障害の克服に向けた具体的な取り組みを行っている。自助グループへ通い、同じ悩みを抱える人々との交流から力をもらっている。また、摂食障害に関する専門書を読み、病気への理解を深め、回復への道を模索している。特別なきっかけがあったわけではなく、長い時間をかけてじわじわと、「どう考えても世界は広いし、見たことのない景色があるし、豊かになる方法はあるはずだから。できるだけ早くそれに出合いたい」という内なる声に導かれているのだという。
桃奈さんは現在、住民のほとんどが退去した中部地方の老朽化したマンションで、彼氏と2人暮らしをしている。インタビューは、柔らかな光が差し込むその部屋で行われた。室内には、ほとんどが貰い物だというレトロな家具と、たくさんの観葉植物が静かに並んでいた。桃奈さんは地味な部屋着をまとい、沈んだ表情を浮かべていたが、その姿が部屋の雰囲気と不思議とよく馴染み、独特の落ち着きとお洒落な雰囲気を醸し出していた。
彼女を縛る「ルッキズム」という言葉
桃奈さんは、最近になって「ルッキズム」という言葉を知り、自身の悩みの根源の一つがそこにあると気づいたという。ルッキズムとは、外見によって人を評価したり差別したりする考え方だ。「自分の顔面がすごくキモい、もう嫌だ」と思う日がある一方で、「今日は大丈夫だ」と感じる日もあり、とにかく外見のことで頭がいっぱいになってしまう。彼女は「人を見た目で判断したくない」と常々思っていたが、実は自分自身が最も見た目を気にしていることに気づき、そこを本当に変えていきたいと強く願っている。外見への過度な囚われが、彼女の自己肯定感を低め、摂食障害という生きづらさに繋がっている可能性が見えてきた。
自信を剥ぎ取った過去の経験
私が見たところ、桃奈さんはとても整った顔立ちをしている。それでも、彼女を襲う自信のなさ、自己否定感はどこから来るのだろうか。その背景には、過去の辛い経験があった。小学校でいじめられ、中学校でも少しだけいじめられた経験。さらにアルバイト先でも無視されるという経験があり、そうした出来事の積み重ねが、彼女から少しずつ自信を剥ぎ取っていったと感じている。特に小学生の時のいじめっ子は、細くて可愛らしい女の子だったという。「綺麗だったらなんでも許されるんだな」と、幼心に容姿と人の評価が強く結びついたのかもしれないと振り返る。この経験が、後の彼女のルッキズムへの囚われや、自己否定の始まりに深く関わっていると考えられる。
長年にわたる過食嘔吐という摂食障害、そしてその背景にあるルッキズムや過去のいじめによる自己肯定感の低さ。複雑に絡み合ったこれらの問題と向き合い、桃奈さんはいま、少しずつではあるが、回復への確かな一歩を踏み出している。これは、多くの女性が抱える外見への悩みや生きづらさの一端を示す、貴重な体験談と言えるだろう。