秋田県配布の妊娠啓発冊子、表現に批判殺到。「卵子の老化」イラストが物議

妊娠を視野に入れた健康管理「プレコンセプションケア(PCC)」の啓発活動として、秋田県が高校生に配布した冊子の表現が物議を醸しています。冊子に掲載された「卵子の老化」を表現したイラストや一部の文言に対し、SNSを中心に批判が集中。専門家からも「偏見を助長する恐れがある」との指摘が出ています。本記事では、問題となっている冊子の内容、専門家の意見、そして秋田県の対応について詳しく解説します。

問題視された冊子の内容とは?

秋田県が配布した冊子は、一般社団法人日本家族計画協会が2013年に作成した「将来、ママにパパになりたいあなたへ~妊娠・出産のリミット~」というタイトルのものです。高齢出産のリスクや不妊治療、避妊などについて図解入りで解説しています。

問題となっているのは、35歳を迎えた女性が「えっ 手遅れ!?」と驚き、しわの寄った卵子に精子が「熟女キラーです!」と迫るイラストや、50歳以上の卵子を「閉店」と表現するなど、女性の出産年齢に対する表現です。また、男性に対しては「脱!草食化!」と呼びかけるなど、性役割に関する固定観念を助長する表現も批判の対象となっています。

35歳を迎えた女性が「えっ 手遅れ!?」と驚き、しわの寄った卵子に精子が「熟女キラーです!」と迫るイラスト35歳を迎えた女性が「えっ 手遅れ!?」と驚き、しわの寄った卵子に精子が「熟女キラーです!」と迫るイラスト

専門家の見解

産婦人科医でテレビ番組のコメンテーターとしても活躍する宋美玄氏は、この冊子の内容について「炎上してしかるべき内容」と厳しく批判しています。宋氏は、「高齢不妊の不安をあおるような表現で出産を急かす内容であり、公に配布する冊子として不適切。性教育が不十分な学校現場で、生徒に偏見を抱かせる可能性がある」と指摘しています。

秋田県の対応とPCCの現状

秋田県は、不妊に悩む当事者からの「もっと早く知識を知りたかった」という声を受けて啓発活動を開始し、若者向けで分かりやすいという理由でこの冊子を選定しました。2020年度から2023年度までの3年間(2021年度を除く)、県内の高校2年生と県内全市町村に配布していました。

批判を受けて、県保健・疾病対策課の担当者は「表現に配慮が欠けており、検討段階で配布を中止すべきだった。今後は人権や多様性を考慮した情報発信を心掛けたい」と釈明しています。現時点では冊子の回収は行わない方針です。

PCCは、世界保健機関(WHO)が2012年に定義し、日本政府も普及を推進しています。東北地方では、福島県が普及事業を展開し、相談拠点の設置や検診の実施などに取り組んでいます。宮城県や岩手県もセミナー開催や冊子配布など、独自の啓発活動を行っています。

冊子「将来、ママにパパになりたいあなたへ~妊娠・出産のリミット~」冊子「将来、ママにパパになりたいあなたへ~妊娠・出産のリミット~」

多様な選択肢への配慮が必要

PCCの周知活動を行う秋田大学病院産科婦人科の藤嶋明子医師は、「妊娠に関して、問題が起きてから後悔する人が多い」として、早期からの知識習得の重要性を強調しています。同時に、啓発活動においては、出産するか否かなど、個人の選択を尊重する視点が不可欠だと指摘。「PCCは出産を強制する政策ではなく、すべての人が望む選択を実現するために必要な知識を提供するためのもの」と述べています。

まとめ

今回の件は、PCCの啓発活動における表現の難しさ、そして多様な価値観への配慮の重要性を改めて浮き彫りにしました。妊娠・出産に関する情報は、個人の人生設計に大きく関わるデリケートな問題です。偏見や固定観念を助長するのではなく、多様な選択肢を尊重した情報提供が求められています。