西洋と賛美歌の薫り「海道東征」真価を見抜いた芥川賞作家・阪田寛夫 8日コンサート

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今年4月に東京芸術劇場で開催された交声曲「海道東征」コンサート (桐原正道撮影)
今年4月に東京芸術劇場で開催された交声曲「海道東征」コンサート (桐原正道撮影)
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 神武天皇の「東征」を題材に、日本建国神話を格調高く描いた交声曲「海道東征」。教会音楽(賛美歌)の要素が感じられるなど、新しい音楽性に人々が魅せられた。大阪市出身の芥川賞作家、阪田寛夫(ひろお)氏(1925~2005年)もその一人。昭和61年に「海道東征」という短編小説を発表し、翌年、川端康成文学賞を受賞した。阪田氏の長女でエッセイストの内藤啓子さん(67)は「作詞家でもあり、音楽にも造詣(ぞうけい)が深かった父は、一聴してあの曲の“真価”を見抜いたのでは」と語る。(岡田敏一)

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 詩人であり作家の阪田氏が、初めて交声曲「海道東征」を聴いたのは15年、当時、旧制中学の3年生。大阪・中之島にあった「大阪朝日会館」だった。

 随想風の短編小説「海道東征」によると、学校の中間考査の点が悪く、勉強しろ、と言う母に「紀元二千六百年を奉祝する音楽会だから」と出かけた。200人以上の合唱に感銘を受けたようだ。

 〈いきなり心ひろびろと歌いだすバリトン独唱がすばらしかった〉

 〈とりわけこのアルトの、横に強く張った南欧風の唇に乗って、日本の古語がみどりの山々や梢を慕って切々と、あるいは鋭く光りひるがえるのを、息づまる思いで聴いた〉

 深い感動を記している。「家に戻ってもプログラムの歌詞を見ながら歌えるほど」で、まもなく発売されたレコードも手に入れた。

 当時、オーケストラの指揮者にあこがれ、レコードに合わせて割り箸を振る趣味があり、「その遊びをするのに、『海道東征』ほど都合のいい曲はなかった」と書かれている。


東京都の実家で撮影された阪田寛夫氏の家族写真。朝日放送で「海道東征」の公演を企画していた頃という(左端が内藤啓子さん=提供)
東京都の実家で撮影された阪田寛夫氏の家族写真。朝日放送で「海道東征」の公演を企画していた頃という(左端が内藤啓子さん=提供)
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 内藤さんは、「内弁慶で、外では紳士なのに、家の中では変なおじさんでしたね。レコードに合わせ、お箸を指揮棒代わりに振って、指揮者のまねをしている姿を私も何度も見ました。本当に心酔していたようです」と笑う。

     ■ ■ ■

 阪田氏は、大学を卒業後、大阪の朝日放送に入社。東京支社に勤務していた36年秋、正月のラジオの特別番組として「海道東征」を再演する企画を提案した。「まことに正月の放送界をかざるにふさわしい番組である」と考えたという。

 阪田氏はなぜ、それほど心酔したのか。内藤さんはその理由をこう分析する。

 「楽曲そのものの良さに加え、当時は珍しかった西洋の音楽、とりわけ賛美歌の薫りを感じ取ったからではないでしょうか」


指揮者の福島章恭
指揮者の福島章恭
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 「海道東征」は、昭和の音楽史の礎を築いた作曲家、信時潔(のぶとき・きよし)が作曲、詩人の北原白秋が作詩。独唱、合唱、管弦楽で構成される全8章、約1時間の大作だ。

 牧師の三男として育った信時。大阪フィルハーモニー合唱団の合唱指揮者、●島章恭は「牧師の息子として育った信時らしく、西洋のミサ曲を思わせる瞬間がある」と指摘する。

     ●=示へんに福のつくり

 内藤さんによると、阪田氏も賛美歌が流れている家庭環境で育ち、「“自称不良クリスチャン”を名乗っていた」という。内藤さんは「きっと、牧師の息子さんだった信時さんにシンパシーを感じていたのでは。合唱にも思い入れが強かったようです」と話す。

 阪田氏は小説『土の器』で芥川賞を受賞した。同時に童謡「サッちゃん」(昭和34年)や「おなかのへるうた」(35年)の作詞を手がけるなど、音楽の分野でも才能を発揮した。さらに、宝塚歌劇のファンで、次女も入団し、大浦みずきの芸名でトップスターとして活躍した。


平成13(2001)年頃に撮影された阪田寛夫氏晩年の家族写真。内藤さん(後列左)と妹の大浦みずきさん(同右)も笑顔を見せる (内藤啓子さん提供)
平成13(2001)年頃に撮影された阪田寛夫氏晩年の家族写真。内藤さん(後列左)と妹の大浦みずきさん(同右)も笑顔を見せる (内藤啓子さん提供)
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 「とにかく音楽が好きで、当時の東京帝国大学で音楽と美学を学び、『音楽の分かる詩人』と言われていました。作詞家としても活動したのは、自然なことだったのかもしれません」

 「海道東征」は、音楽を愛した阪田氏の原点の一つだという。

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■コンサート「海道東征」8日、ザ・シンフォニーホールで

 交声曲「海道東征」を全曲演奏するコンサート「交声曲『海道東征』」(産経新聞社主催、滋慶学園グループなど協賛)は11月8日午後6時半から、大阪市北区のザ・シンフォニーホールで開かれる。S席8千円、A席7千円。問い合わせは産経新聞社事業本部(06・6633・9254)。

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