宮城県知事選、村井嘉浩氏6選の裏側と「舌出し」騒動:SNS時代の苦戦と県民の審判

10月29日、宮城県知事選(26日投開票)で6選を果たした無所属・村井嘉浩氏(65)は、県庁で選挙管理委員会から当選証書を受け取りました。今回の選挙戦は、参政党と政策覚書を結んだ無所属・新人で、元自民党参議院議員の和田政宗氏(51)と激しく競り合い、村井氏にとってはまさに「薄氷の勝利」となりました。異例の苦戦を強いられた現職知事の勝利の背景には何があり、その後の「舌出し」行動がなぜ波紋を呼んだのか、詳細を分析します。

当選証書を受け取り笑顔を見せる村井嘉浩宮城県知事、宮城県知事選6選の薄氷の勝利当選証書を受け取り笑顔を見せる村井嘉浩宮城県知事、宮城県知事選6選の薄氷の勝利

「経験したことのない苦しさ」長期政権への逆風とSNS上の誤情報

26日深夜、当選を確実にした村井氏は、仙台・青葉区の事務所で「今まで経験したことがない選挙だった。非常に苦しかった」と率直なコメントを残しました。今回の選挙戦は、これまでの村井氏の選挙とは一線を画すものでした。

村井氏は、県議会最大会派である自民党に加え、公明党、日本維新の会からの支援を受け、選挙戦終盤には自民党の高市早苗衆議院議員(64)からも応援のビデオメッセージが送られるなど、盤石な体制で臨みました。一方、対立候補の和田氏は、水道事業の民営化や移民政策などを巡る政策覚書を参政党と締結し、同党から事実上の支援を受ける形で、既存政党への不満層や新たな支持層を開拓しました。

村井氏が苦戦を強いられた主な要因は二つ指摘されています。一つは、2005年から現職を務める長期政権に対する批判です。長期間にわたる在任期間は安定をもたらす一方で、「県政の停滞」や「変化の乏しさ」を訴える層の出現を許しました。もう一つは、SNS上で拡散された自身の政策を巡る根拠のない情報や誹謗中傷です。例えば、今年10月に村井氏が検討事項として挙げた土葬を可能とする墓地整備については、9月の時点で市町村の理解が得られず検討を白紙撤回していたにもかかわらず、選挙期間中には「選挙のために撤回した」といった誤った言説が拡散され、村井氏に対する激しい批判の的となりました。このようなSNS上の情報戦は、従来の選挙では見られなかった新たな課題を浮き彫りにしました。

「ノーサイド」発言の直後に波紋呼んだ「舌出し」の真相

“未知”の選挙戦を終えた村井氏は、7月の時点で一度は引退を考えたことも明かしつつ、「宮城を少しでもいい形にして、次の方にバトンタッチできるように、4年間全力を尽くします」と力強く述べ、事務所内は歓喜に包まれました。

また、和田氏が積極的に子育て政策を掲げていたことを念頭に、「子育てが非常に大変だという声が、和田さんの支持で集まったと思います。これは県だけではできないので、国の力を借りながら、市町村と協力しながら、子育てしやすい県を目指してまいりたいと思います」と、今後の県政運営への抱負も語りました。

さらに、和田氏を支援し街頭にも立った参政党の神谷宗幣代表(48)については、「神谷さんも一生懸命応援されました。選挙が終わったら、ノーサイド。関係ありません」と発言。その上で、神谷氏と会う機会を設けたいとも話しました。6選を決めた直後の余裕ともとれる発言でしたが、この直後、村井氏が取った行動が大きな波紋を呼ぶことになります。

村井氏は、会場にいた支持者たちに向けニヤリと笑みを浮かべ、舌を突き出したのです。この仕草に対し、SNS(X)上では以下のような批判の声が相次ぎました。

  • 《参政党神谷代表について、選挙が終わればノーサイド、また機会があれば会ってお話ししたい、と言った後にペロッと舌を出して、しかも周りから笑いが起こった。自民党員だけどこれはいただけないわ。村井さんどうしちゃったの?》
  • 《村井さん…舌出し会見は舐めてるよさすがに宮城県知事としての誇りある行動では無いよなさすがに》
  • 《神谷さんと参政党の話をした後に舌を出す、、これが知事のやることか》
  • 《村井知事は信用できないし あの舌ペロは参政党を馬鹿にしていると思います!》

事務所内では村井氏の支持者から爆笑が起こっていたものの、この挑発的ともとれる「舌ペロ」の仕草は、SNS上ではすこぶる不評でした。

薄氷の勝利が示す県民感情の変化:若年層と無党派層の動向

選挙では和田氏に競り勝った村井氏ですが、その差はわずか1万6000票あまりという薄氷の勝利でした。特に注目すべきは、大票田である仙台市を除く市町村では村井氏が和田氏を上回ったものの、仙台市では和田氏が約3万6000票も村井氏を上回った点です。仙台放送の出口調査によると、10~40代の若年層では和田氏が最も支持を集め、特定の政党を支持しない無党派層の投票先も、村井氏が37%に対し、和田氏が41%と上回っていました。これらの数字は、長期政権に対する若年層や無党派層の変革への期待が和田氏に集まったことを示唆しています。

前出の政治部記者は、村井氏と神谷氏を巡る「因縁」にも触れています。今年7月には神谷氏が「宮城県は水道事業を外資に売り渡した」と発言するなど、知事選前から両者の間には政策を巡る対立がありました。インタビューでは「ノーサイド」と落ち着き払っていた村井氏ですが、詳細な選挙結果が判明する前でさえ、内心では相当肝を冷やしていたことでしょう。

「選挙に辛勝したことに対する安心感か、それとも神谷氏に対する何らかのメッセージだったのか、舌を出した意図は分かりません。しかし、何かしらの心情が現れていたことは間違いありません」と政治部記者は指摘します。「いずれにせよ、余計な憶測を生む可能性を考慮できなかった村井氏に落ち度がありますね」。

村井氏が知事の座に就いてから20年近くが経ちます。今回の激戦と、その後の行動が示した波紋は、これからの県政運営において、県民の多様な声にこれまで以上に耳を傾け、慎重な言動が求められることを示唆しています。任期満了のその日まで、“舐めずに”職務に邁進することが期待されます。

参考文献:
Yahoo!ニュース