釧路湿原のメガソーラー問題、著名人も動く全国的議論へ

ラムサール条約登録湿地として知られる釧路湿原において、大規模な太陽光発電施設(メガソーラー)の建設が問題視されています。造成工事現場を捉えた動画がSNSに投稿されたことを発端に、著名人による発信が加わり、この問題は全国的な批判と議論の渦へと広がりました。釧路市では環境団体や行政の働きかけにより新たな規制条例が制定・施行されたものの、開発の状況は新たな局面を迎え、鶴間秀典釧路市長は国に対し解決策を強く訴えています。これを受け、政府や国会も法制度の検討に着手するなど、事態は大きな動きを見せています。

野口健氏と齊藤慶輔氏が語る「自然と人の共存」

2023年10月23日夕方、釧路市内で登山家の野口健氏と猛禽類医学研究所代表の齊藤慶輔氏によるトークイベント「自然と人のクロストーク〜釧路湿原から考える共存のかたち〜」が開催されました。齊藤氏は環境省釧路湿原野生生物保護センター敷地内にある研究所を拠点に活動する獣医師であり、日頃から交通事故などで傷ついた野生動物の治療状況をSNS(旧X)で発信しています。

今年6月には、研究所のすぐ近くでメガソーラーの造成工事が始まったことを受け、ドローンで撮影した動画を投稿。8月に公開された映像には、工事現場の隣で悠然とエサをついばむタンチョウの親子の姿が映し出され、希少な野生生物が生息する湿原での開発の是非を問いかける形となりました。この映像は、湿原の生態系への深刻な影響を浮き彫りにし、多くの人々に衝撃を与えました。

釧路湿原に建設されたメガソーラー施設の広大な太陽光パネル群釧路湿原に建設されたメガソーラー施設の広大な太陽光パネル群

著名人の発信が全国を動かす契機に

野口氏は、自身がこの問題に関心を持つに至った経緯について説明しました。「8月に齊藤先生の撮った映像をXで拝見し、そのインパクトに圧倒されました。その投稿を引用する形で『現場を見たい』と発信したところ、先生から『ぜひ来てください』と誘っていただいたのです。」と語り、この交流が転機となったことを明かしました。その頃、ファッションモデルの冨永愛氏もこの問題について発信しており、野口氏が「一緒に現場を見に行きませんか」と呼びかけたところ、タレントのつるの剛士氏も合流し、彼らの行動は全国ニュースとして大きく報じられることになりました。

野口氏は、これまでも八ヶ岳の山麓など、日本各地に広がるメガソーラーの問題について十数年前から警鐘を鳴らし続けてきましたが、「なかなか継続的に広がりを見せず、全国ニュースになる機会も少なかった」と振り返ります。しかし、今回の釧路湿原のケースは「ドーンといきましてね」と述べ、一気に全国的な注目を集める結果となったことを強調しました。この出来事を通じて、「全国どこでも同じ問題を抱え、皆がもがいている」という共通認識が生まれ、今こそ根本的な解決策を訴えていくべきだと強く主張しました。

解決への道のりと持続可能な社会

釧路湿原のメガソーラー問題は、再生可能エネルギー開発と環境保護の間のデリケートなバランスを浮き彫りにしています。著名人の声と市民の関心が結びつき、地方行政から国会、政府へと議論の場が拡大していることは、持続可能な社会を構築する上で不可欠な対話と行動を促す重要な一歩です。希少な野生生物が生息する湿原の未来を守るため、環境と共存する新たな法制度の確立と開発のあり方が模索され続けるでしょう。この問題は、日本全体が直面するエネルギー政策と自然保護の課題に対する貴重な教訓を提供しています。

参考文献