「生産量は不足していない」
【前後編の後編/前編からの続き】
ついに放出されることになった21万トンの備蓄米。もちろん焦点は「これで価格は落ち着くのか」だが、昨年8月の「令和の米騒動」と、それに続くコメ価格の高止まりを招いたものは何だったのか。その背景をたどると、誰もが知るあの「巨大組織」に行き着く――。
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前編【21万トンの米はどこに消えた? 備蓄米を放出しても「適正価格に落ち着くまで2年近くかかる可能性も」】では、備蓄米放出がコメ価格に与える影響について、専門家の分析を紹介した。
農水省は24年産のコメの農協など主要業者の集荷量が前年より21万トンも少なかった原因について、
「前年比で生産量は18万トン増えているのでコメは不足していない。21万トンは業者が買い占めている、と言っていますが、40万トンの“先食い”分を無視しています。単純にコメが足りていないだけなのです」(元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏)
「価格が高止まりするのは昨年には予想できたはずなのに」
週刊新潮に寄稿した記事〈2025年も市場の“奪い合い”激化でコメ不足が起きる〉(1月2・9日号)で現在の状況を“予見”していたノンフィクション作家の奥野修司氏はこう話す。
「通常、9月10月は残っている古米も新米と共に売られているものですが、昨年は古米がどこにもなく、新米の奪い合いになり、農協もなかなか確保できない状態でした。コメ不足が続き、価格が高止まりするのは昨年には予想できたはずなのに、農水省は備蓄米の放出を渋り続けたわけです」
政治部記者によると、
「日本の農家の約7割を占める兼業農家は自民党農林族の票田。彼らの利益のためには米価を維持しなくてはならない。そのため農水省は備蓄米の放出に慎重な立場を貫いてきたのです」
詭弁を編み出した農水省
前出の山下氏も言う。
「農水省はコメ不足を認めたくない。認めてしまうと備蓄米を放出せざるを得なくなり、放出したらせっかく史上最高水準になっている米価が下がってしまうからです」
そこで農水省が編み出したのが、「どこかにコメがスタック(滞留)している」という詭弁(きべん)である。
「普通、何か問題があれば事実を確認してから対応策を講じます。しかし今回は確認もしていないのに、業者が買い占めている、と言っているわけです。コメが不足していることを認めず、あるかどうかも分からない問題を“ある”と言い、業者で滞留しているコメを市場に出すために備蓄米を放出する、という論理を作り上げました。もし業者が米価低下で抱えている21万トンを吐き出せば米価は暴落します」(同)