北朝鮮の賃上げ10倍でも生活は楽にならない? その驚くべき実態とは

北朝鮮で2023年末、国営企業や公務員の賃金、そして退職者の年金が10倍に引き上げられました。一見すると画期的な政策に思えますが、国内では歓迎の声はほとんど聞こえてきません。一体なぜでしょうか?本記事では、アジアプレスの取材協力者からの情報に基づき、その背景にある驚くべき実態を紐解いていきます。

実態1:賃上げの裏に潜む不安と不信感

賃上げが発表された当初から、北朝鮮の人々の間には不安と不信感が広がっていました。その理由は大きく分けて二つあります。

差し引き額の増加への懸念

一つ目は、賃金から差し引かれる金額も増加するのではないかという懸念です。これまでにも、様々な名目で給料から天引きが行われてきた歴史があるため、今回の賃上げも同様に、手取り額はそれほど増えないのではないかと疑う声が上がっていました。

経済活動の制限強化への恐れ

二つ目は、賃上げを口実に、政府による経済活動の統制がさらに強化されるのではないかという恐れです。北朝鮮では、配給だけでは生活が成り立たないため、多くの人々が職場外での商売や副業で収入を得ています。賃上げによって公式の収入が増えれば、政府はこれらの活動を制限し、国家による管理を強める可能性があると懸念されていました。

altalt北朝鮮の平城市駅前。人々の経済活動の様子が伺える一枚。(参考写真:2013年3月撮影)

実態2:意味をなさなかった国定賃金

そもそも賃上げ以前の国定賃金は、生活していく上でほぼ意味をなさない水準でした。アジアプレスの長年の物価調査によると、2022年末の平均月収は2,000~3,000ウォン。これは、トウモロコシ1kg、あるいは白米500g程度の価値しかありませんでした。配給も労働者本人分のみで、3~7日分しか支給されていませんでした。家族への配給は全くありません。

このような状況下で、人々は職場外での商売や日雇い労働で生計を立ててきました。都市部では、日雇い労働で1日1万ウォン程度稼ぐことができたといいます。つまり、人々は30年にわたり、義務である職場での労働に加え、副業を主な収入源として生活してきたのです。金正恩政権は、このような個人の経済活動を制限しつつ、国定賃金の大幅引き上げを実施したのです。

実態3:当局の対応と残る課題

多くの住民の予想通り、賃上げ後も党費や盟費などの天引きは続きました。軍隊や災害被害への支援の強要も同様です。しかし、住民の不満の高まりを受け、当局は2024年2月頃から対応を始めました。両江道の協力者A氏によると、企業に対し、天引きを廃止し賃金を全額支給するよう指示が出されたといいます。会計検査も厳しくなり、賃金支給の実態を報告する義務も課せられました。

天引きをなくしても、別途徴収されれば手取り額は変わりません。しかし、当局は「全額支給」を強く求めているようです。これは、食糧供給難への対応策として、市場経済をある程度容認せざるを得ない状況も背景にあると、北朝鮮経済に詳しい専門家、金成民氏は指摘します。

賃上げは本当に生活改善につながるのか?

北朝鮮の賃上げは、国民の生活改善につながるのでしょうか? 10倍という数字は一見大きく見えますが、その裏には様々な問題が潜んでいます。政府の統制強化や物価上昇の可能性もあり、今後の動向を注意深く見守る必要があります。

北朝鮮経済の未来

北朝鮮経済の未来は、いまだ不透明な状況です。 今回の賃上げが、真に国民の生活向上に繋がるのか、今後の動向に注目が集まります。 皆さんはこの状況をどうお考えですか?ぜひコメント欄で意見を共有してください。 また、jp24h.comでは、他にも様々な北朝鮮関連の記事を掲載しています。ぜひそちらもご覧ください。