クルマを運転するとき、前に進むときにはD(Drive:ドライブ)、バックするときはR(Reverse、リバース)、止めるときにはP(Parking:パーキング)にシフトレバーを入れます。そしてもう一つ、目立つところにあるのが「N」(Neutral:ニュートラル)レンジです。一般的なAT車を運転するときには使う必要がないのですが、時々Nレンジを積極的に使うドライバーを見かけることがあります。しかし、AT車でNレンジを使うことは意味がないばかりか、むしろ危険につながることもあるのです。そもそもNレンジとは一体何なのか、使わないのになぜ無くならないのかについて考えてみましょう。(自動車ジャーナリスト 吉川賢一)
● Nレンジは、前進も後進もしない、動力を完全に切り離した「中立状態」
国内で販売されている車の約98%がオートマチックトランスミッション車(以下AT車)といわれる現代。AT車限定免許の取得率も70%を超え、最新のクルマでは、シフトレバーすらなくなり、シフト操作はスイッチ式やダイヤル式に変わりつつあります。劇的な変化を遂げている昨今のクルマのシフトレバー事情。それでもなくならないのが、今回取り上げるN(ニュートラル)レンジです。
前回の記事でも解説したように、一般的なAT車のシフトレバーには、車を止める(パーキング)ためのP、前進(ドライブ)するためのD、後退(リバース)するためのR、そしてNレンジが用意されています。
Nを選択すると、エンジン(モーター)の動力を駆動系から完全に切り離すことになり、エンジンをいくら回しても車は前進も後退もすることがない「中立状態」となります。そのため、Nレンジでブレーキペダルから足を放すと、平坦な場所ならばその場に止まったまま、傾斜のある場所だと車は動いていってしまいます。
Pレンジでも車は止まったままの状況になりますが、Pレンジではトランスミッション内のギアに歯止めの金属爪(パーキングロックポールと呼ぶ)が食い込むことで、車が惰性で動くのを停止します(ちなみに、駐車をする際には、歯止めが破損するのを防止するため、サイドブレーキを利かせたあとPレンジに入れるのが正しい操作手順です)。これが、PとNとの大きな違いです。