「那珂(なか)川で、氾濫が、発生しています」
10月13日午前4時過ぎ、台風19号が通り過ぎた水戸市内に市の防災行政無線の声が響き渡った。何の情報も入っていなかった水戸地方気象台の職員は慌てた。氾濫発生を確認すれば、気象台は河川事務所と共同で「氾濫発生情報」を出さねばならないからだ。
当時、水位は過去最高の7・54メートルを越え、一刻の猶予もなかった。だが、問い合わせた国土交通省常陸(ひたち)河川国道事務所からの返事は「今のところ、巡回員から連絡がないので発表しない」というものだった。
結果、那珂川中流の3カ所が決壊し、氾濫した水戸市内では最大7メートル超の浸水被害が発生。台風19号で堤防が決壊した7つの国管理河川のうち、那珂川だけ氾濫発生情報が全く出せていなかった。
異変に気付いたのは水戸市だけではない。決壊した那珂市では越水を確認しただけでなく同事務所に連絡していた。氾濫発生情報の発表には現場確認が原則必要とされる。「複数河川で氾濫情報があり、現場が混乱していた」。所管する関東地方整備局の河川調査官、高畑栄治(44)はマンパワー不足を認めた。
結果的に行政の対応が後手に回ったことになるが、手違いは他にもあった。
全国最多となる約9400人のブラジル人が暮らす浜松市では12日夕、避難勧告発表時に「川へ避難してください」とも読み取れる不適切なポルトガル語のメールを配信。文面を準備せず、チェック態勢も手薄だったのが原因だった。
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自治体が出す避難情報をめぐる問題はこの夏、すでに表面化していた。
8月1日に甲府市内で大雨が降った。洪水危険度を示す情報で警戒レベル4相当が一部の河川で現れ、ヤフーの防災情報サービスで「今すぐ避難の判断をしてください」と市内のユーザーに発信された。
だが、市は避難勧告を出す状況ではないと判断していた。市民から「本当に避難すべきか」「市が出した情報なのか」など13件の問い合わせがあり、市は「住民が混乱する」などと改善を求める要望書を出した。