河原町団地。川崎市幸区に位置するこの団地には、SF映画から飛び出してきたかのような逆Y字型の住棟が存在します。まるで地面に踏ん張るように立つその姿は、見る者の目を惹きつけ、数々の謎を投げかけています。今回は、その独特な形状の秘密、そしてそこに住まう人々の生活に迫ります。
逆Y字型誕生の背景と設計者の想い
この近未来的な建物を設計したのは、国立京都国際会館も手がけた建築家、大谷幸夫氏(1924-2013)。大谷研究室出身で、竣工当時を知る河野進氏によると、この形状は日照確保と高密度化を両立させるための革新的な試みだったといいます。
alt
巧みな採光と通風:住みやすさを追求した設計
逆Y字型住棟の最大の特徴は、そのユニークな間取りと、計算し尽くされた採光・通風設計にあります。『神奈川県住宅年報』に掲載された間取り図を見ると、3DKというシンプルな構成ながら、各部屋への光と風の流れが綿密に考慮されていることが分かります。
低層部の住戸は、正方形のバルコニーから南向きの和室へ光が差し込み、さらに欄間を通して台所まで明るく照らします。床下通風も備え、夏でも快適に過ごせる工夫が凝らされています。高層部の住戸は、東西に開けたバルコニーが設置され、眺望の良さと共に、抜群の通風を実現しています。
唯一無二の存在:高コストが生んだ孤高の建築
革新的な設計は、しかしながらコスト高という課題も抱えていました。河野氏によると、逆Y字型住棟の建設費用は、一般的な住棟に比べて約2割も高額だったとのこと。そのため、河原町団地でも3棟のみに留まり、他の地域への普及は見送られました。「構造の複雑さと設備費用がネックとなり、他に追随する人はいなかった」と河野氏は語ります。
alt
逆Y字型団地:未来へのメッセージ
コストの壁に阻まれながらも、河原町団地の逆Y字型住棟は、日照と高密度化という都市住宅の課題に対する一つの解答を示しました。その独特な形状は、単なるデザインの奇抜さではなく、住みやすさを追求した設計思想の結晶なのです。そして、唯一無二の存在として、未来の都市計画への示唆を与え続けていると言えるでしょう。
まとめ:時代を超越する建築の魅力
河原町団地の逆Y字型住棟は、一見奇抜ながらも、機能性とデザイン性を兼ね備えた先進的な建築物です。その誕生の背景、設計者の想い、そしてそこに住まう人々の生活を知ることで、私たちは都市住宅の未来について改めて考えさせられます。この機会に、川崎の地に佇むこの近未来都市を訪れてみてはいかがでしょうか。