多くの人の負担が増える
厚生労働省が今国会で成立を目指す「年金制度改革関連法案」が、7月の参議院選挙を意識した自民党内の反対派の抵抗で、揺れています。
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この法案は、「106万円の壁の撤廃」や「基礎年金の底上げ」という、国民には耳障りのいい言葉が入っていましたが、「基礎年金の底上げ」については、会社員の加入する厚生年金の積立金を、基礎年金の給付に振り向けるということが物議をかもし、すでに2009年に先送りされました。
106万円の壁の撤廃についても言葉の印象としては国民のためになるものと感じるかも知れませんが、実際には国民に新た負担を強いることになる実態がわかってきたために、選挙で負けることを危惧する自民党の中から、反対の声が上がっています。
本コラムで1月に指摘した「高額療養費制度」に続き、これも内容が多くの人にわかってくると、先送りになるのではないかと思っています。
では、なぜ「106万円の壁の撤廃」をすると、なぜ多くの人の負担が増えるのでしょうか。
具体的に、見てみましょう。
今パートで働く人は「年収106万円(月額8万8000円)以上」「従業員51人以上の企業に勤務」「労働時間が週20時間超」という年収・企業規模・労働時間の3つの条件を満たすと、会社の社会保険に加入しなければなりません。
「労働時間週20時間以上」だけが残ると
この3つの条件を満たして会社の社会保険に入ると、会社員の妻などは、それまで夫の扶養に入っているために本人は1円の支払い義務もなかった社会保険料を、給料の中から天引きされることになります。だとすれば、106万円の壁が撤廃されれば、もっと稼いでも扶養家族のまま、社会保険を天引きされることなく働けるのではないかと思うかも知れませんが、これは誤解。
なぜなら「106万円の壁の撤廃」をしても、その向こうにより高くて広い「労働時間が週20時間超」という壁がそびえ立っているからです。厚労省の提案する「106万円の壁の撤廃」は、年収・企業規模・労働時間の3条件の内、年収と企業規模を撤廃して、「労働時間が週20時間超」だけを残そうというものなのです。
これだと確かに「年収106万円以上」という年収の壁は消えますが、2つの大きな問題が、新に生まれてしまうのです。
1つ目は、給料の手取りが減るパートが多数出現するということです。
物価高の今、会社員の妻の専業主婦でも、家計が苦しく働きに出ているという人は多数います。
現在、会社員の妻で従業員51人以上の企業に勤めている人は、106万円を超えた途端に約15万円の社会保険料が発生してしまい、結果的に手取りが91万円ほどになってしまいます。
このため年収が106万円を超えないようにしようと、労働調整する人が多く、これが「106万円の壁」と言われているものです。
では、この壁と従業員51人以上という壁をなくし、「労働時間週20時間」だけが残ると、どういうことが起きるのでしょうか。