特殊詐欺グループに関与し、高齢者から金融機関のキャッシュカードを盗んだとして、神奈川県警が10月31日に窃盗の疑いで県警第1交通機動隊の巡査、蕪木紀哉(かぶらき・かずや)容疑者(24)を逮捕してから14日で2週間。全国の警察が組織を挙げて高齢者を食い物にする特殊詐欺の撲滅に邁進(まいしん)するなかでの現職警察官逮捕の“衝撃”は、想像を絶するものだった。このまさかの事態は社会を、そして特殊詐欺撲滅を掲げる県警自身を、いまなお激しく揺さぶり続けている。いったい識者はこの事件をどう見ているのか。
1人暮らしの80代の無職男性宅に「横須賀署の署員」を名乗る若い男が訪ねてきたのは、その日の夕方のことだった。男性宅にはこの直前、警察官になりすました別の男の声で「振り込め詐欺の犯人が、あなたの口座から不正に現金を引き出した。これから(署の)刑事課の者を行かせる」などと電話があり、男性は目の前の男から金融機関のキャッシュカードを封筒に入れるように指示され、言われるままに従ってしまう。男は男性が目を離した隙に別の封筒にすり替え、カードを盗み出してその場を後にした-。
ギャンブルで借金
これは横須賀市で10月7日に発生した、特殊詐欺グループが警察官などをかたって高齢者に近づき、キャッシュカードなどを盗み取る「カードすり替え型窃盗」事件の一部始終だ。類似の被害は全国で相次いでいるが、この事件がほかと決定的に異なるのは、男性宅に現れた横須賀署員を名乗る「受け子」の男が「本物の巡査」だった点にある。
県警によると、この犯行の直後、横浜市都筑区内のコンビニエンスストアに設置されたATM(現金自動預払機)から男性の口座の1つにアクセスがあり、現金50万円が引き出されていた。県警はATM周辺の防犯カメラの映像を解析。そこに写り込んでいたのが、蕪木容疑者が所有する自動車と同型車両の一部と、本人に酷似した男の姿だった。取り調べに対して「ギャンブルなどで数百万円の借金があり、カネが欲しかった」との趣旨の供述をしている。
平成25年4月に県警に採用された蕪木容疑者は、第1交通機動隊で交通取り締まりなどに従事していた。自宅は繁華街から離れた同市南区六ツ川の住宅街にある築40年超のマンションの一室で、住民の一人は「引っ越されてきたときは、きちんとごあいさつにいらした」と証言する。