【北京=西見由章】中国当局が反スパイ法違反などの容疑で拘束していた北海道大の岩谷將(のぶ)教授が15日解放されたことについて、中国の主要メディアは報じず“黙殺”している。中国当局は日本政府や日本人研究者らの強い要求を受けて解放を決断しており「弱腰外交」の批判を避けたい当局の思惑が透ける。来春に習近平国家主席の国賓訪日を控える中で国内世論への悪影響を抑える狙いもある。
関係者によると教授は15日に帰国した後、家族と合流した。知人らには心配をかけたことをわびるメッセージも送られた。
教授の解放について、16日付の中国主要紙は一切伝えていない。一部のネットメディアは当局が教授を訓戒した後に保釈したとする中国外務省の発表内容を伝えたが、コメント欄には「スパイを解放するのか」と怒りの声もみられた。
中国外務省は教授が国家秘密に関わる資料を違法に収集し刑法と反スパイ法に違反したと説明している。
2014年施行の反スパイ法は「国家秘密に属する文書や資料などを違法に所持した者は、法に従い刑事責任を追及する」と規定。
一方、刑法は国家安全危害罪のうち「国家秘密を探り、買収した罪」や「スパイ罪」の適用が考えられるが、いずれも「外国の機関や組織、人員」のための行為であることが条件だ。中国外務省の発表にそうした言及はなく、証拠は得られなかったもようだ。