タイ・バンコクで3月28日に発生したミャンマー大地震の影響で、建設中の30階建て高層ビルが崩壊するという衝撃的な事件が発生しました。このビルはタイ会計検査院の新庁舎として、中国国有企業「中鉄十局」が建設を請け負っていました。地震の規模はマグニチュード7.7と大きかったものの、バンコクは震源から1000kmも離れており、震度は3〜4と比較的小規模でした。それにもかかわらず、このビルだけが完全に崩壊したという事実は、手抜き工事の疑惑を招き、タイ国民の間に大きな波紋を広げています。
中国「一帯一路」の闇:繰り返される手抜き工事の疑惑
中鉄十局は、中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」の主要企業として、世界各国でインフラ建設に携わってきました。タイも2017年に一帯一路に参加しており、中鉄十局は2018年にタイに進出。以来、政府関連の工事だけでも13件を受注しています。
しかし、一帯一路関連の工事では、過去にも手抜き工事が問題視されてきました。セルビアの鉄道駅屋根崩壊事故、ケニアの橋崩落事故、エクアドルの水力発電所の亀裂問題など、数々の事例が報告されています。専門家の間では、「一帯一路は手抜き工事を輸出している」との批判も上がっており、今回のビル崩壊もその一例ではないかと疑われています。
alt(写真:崩壊したタイ会計検査院新庁舎。ミャンマー地震の影響でわずか数秒で倒壊した)
崩壊したタイ会計検査院新庁舎:90億円規模の巨大プロジェクトの末路
崩壊した会計検査院新庁舎は、高さ137メートル、30階建ての巨大ビルで、2020年に着工されました。中鉄十局はタイの現地企業と共同で入札に参加し、約90億円規模の契約を勝ち取りました。昨年3月末には骨組み工事が完了し、内装・外装工事に着手していましたが、工事の進捗率は全体の30%にとどまっていました。
崩壊当時、現場で作業していた労働者は約90人。4月2日現在、15人が死亡、72人が行方不明と発表されています。救助活動は今もなお続いていますが、生存者の発見は絶望的との見方も出ています。
地元住民の証言:わずか5秒で崩れ落ちたビル
地元住民が撮影した映像には、地震発生からわずか5秒足らずでビルが崩れ落ちる様子が捉えられています。まるで砂上の楼閣のように脆く崩れ去るビルの姿は、手抜き工事の疑惑をさらに深めるものとなっています。建築構造の専門家である佐藤一郎氏(仮名)は、「適切な耐震設計が施されていれば、このような短時間でビル全体が崩壊することは考えにくい」と指摘しています。
alt(写真:崩壊前のタイ会計検査院新庁舎。近代的なデザインが目を引いていた)
タイ政府の対応と今後の展望
事故を受け、タイのプラユット首相は、関係省庁に対し、許可、設計、資材の品質など、全面的かつ徹底的な調査を指示しました。これまで中国企業を擁護する姿勢を見せてきた中国政府も、在タイ中国大使館を通じて「タイ政府の調査に積極的に協力する」との声明を発表しています。
今回のビル崩壊事故は、一帯一路プロジェクトにおける中国企業の工事の品質管理に改めて疑問を投げかけるものとなりました。真相究明と再発防止策の確立が急務であり、今後の調査結果に注目が集まっています。