新NISAが開始され、それまでより多くの国民が投資に興味を持つようになった。政府も「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと、個人投資家の積極的な市場参加を促進している。しかし、野口悠紀雄氏はそのブームを冷ややかに分析する。※本稿は、野口悠紀雄『終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実』(角川新書)を一部抜粋・編集したものです。
● ブームで利益を得るのは 金採掘者を掘った人たち
最近の「新NISAブーム」を見ていて思ったのは、「ブームが起きて人々が一斉に走り出したときに、儲けるのは誰か?」ということだ。
1849年、カリフォルニアにゴールドラッシュが起きた。この時、世界中から集まった金採掘者の中で、金持ちになった人は1人もいなかった。あまりにたくさんの人が押し寄せてきたため、河原の砂金はあっという間に掘り尽くされてしまったからだ。
「オー・マイ・ダーリング・クレメンタイン」は、日本での替え歌は「雪山讃歌」という勇ましい歌になっているが、元の歌は、川で死んだ金採掘者の娘を悲しむ青年の歌だ。
カリフォルニア・ゴールドラッシュで儲けたのは、「金採掘者たちを掘った人たち」だと言われる。英語では、「マイニング・ザ・ゴールドマイナーズ」という。
最初は、金を掘る道具(シャベルなど)を売った人たち。本格的な成功者は、金採掘者のために、丈夫なズボンを作ったリーバイ・ストラウス。このズボンは、「リーバイスのブルージーンズ」として、いまでも残っている。
駅馬車を運行したウェルズとファーゴの2人組も同じ。この駅馬車会社は、その後、時代の変化に適応させて仕事を変化させ、現在のウェルズ・ファーゴ銀行になった。
最高の成功者が、大陸横断鉄道を作ったリーランド・スタンフォード(スタンフォード大学の創始者)。この大学は、21世紀のゴールドラッシュであるIT革命を実現した。
日本の新NISAブームは、カリフォルニア・ゴールドラッシュに比べれば、ずっと小さいものだが、基本的なメカニズムは同じだ。
まず、これで得をしているのは、手数料を稼ぐ金融機関だ。それに対して、広告につられて新NISAに投資をしている人たちは、場合によっては大事な資産を失うだろう。
人々がある方向に一斉に走り出した時、走り出した人たちのほとんどは犠牲者になる。そして、その人たちをうまく利用した人が、つまり「採掘者を掘った人」が成功者になる。
● バブルに乗ろうとした人々の悲劇 原野商法の犠牲者
日本で1980年代に生じたバブルは、本格的なバブルだった。そして、多くの犠牲者を生み出した。その半面、これで成功した人は誰だったろうかと考えてみると、誰も見当たらないのが哀れなところだ。
この時、多くの人が、株式投資に熱中した。まとまった資金を持っている人は、土地を購入した。土地は必ず値上がりすると、信じていたからだ。
と言うより、不動産業者の宣伝でそう信じこまされた。よく考えてみれば、日本の人口は将来減少するのだから、土地が不足するはずはない。それにもかかわらず、土地は必ず値上がりすると信じこまされた。そして、企業は大量の土地を持っているので、含み益が巨額になったとして、株価が上昇した。
この頃、「原野商法」というものが横行した。「この土地は別荘地なので、将来絶対値上がりします」として、原野を売却する会社が多数生まれたのだ。
多くの人たちが、それにつられて別荘地を買った。そして、その犠牲になった。私の友人や知人に、何人もいる。