核家族化、都市化が進んだこの半世紀ほどの間に激増した「ワンオペ子育て」。母親は働きながらの育児に疲労し、心身ともにギリギリの状態であることが多い。良識ある祖父母として、孫や子育て夫婦とどう向き合っていくべきか。320万部の大ベストセラー『女性の品格』の著者であり、教育のスペシャリストが共働き世帯の支え方を説く。※本稿は、坂東眞理子『祖父母の品格 孫を持つすべての人へ』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
● 母親を追い込む ワンオペ子育て
子育てで一番大変な思いをしているのは誰でしょうか。やはり親の責任が重く、特に母親は疲れています。令和の今日でも、自分の身に代えてもこの子を一人前の大人に育てるのだと強い責任感を持って全身全霊で育児をしている母親が多数います。
現在は時代も変わりつつあり、子育てに関わる父親も増えてきましたが、まだまだ父親は「仕事」のために家を離れている時間が長い傾向があり、多くの母親は自分ひとりで毎日毎日子育てに奮闘しています。
しかも子どもは想定外のことばかりしでかします。ケガをした、風邪を引いた、熱を出した、もどした、下痢をした、機嫌を損ねてぐずる。思うようにならないことの連続です。子どもに振り回されて自分のすべきことができない、世の中から置いていかれる、という焦燥感にもさいなまれます。
ほかの母親はもっとうまくやっているのに自分はダメだ、などと劣等感を抱いてしまうこともあります。こうした母親だけが育児を抱え込む、いわゆるワンオペ子育ては核家族化、都市化が進んだこの半世紀ほどの現象です。
人間の子育ては、他の哺乳類よりずっと大仕事です。「おばあちゃん仮説」という説があります。この説によれば、ヒトのメスは閉経し子どもを産まなくなっても長生きし、若いメスの子育てを応援する。そのおかげで若いメスは子どもを多く産めるようになり、生存率も高めることができたという説です。
それに加え、世代を超えて情報を伝達し、知恵を伝えることによって、文化を生み出してきました。現代では女性に限らず、男性も長寿になっています。長寿になった祖父母が文化を伝える存在であり、人類繁栄の鍵だということです。
人類史の長い長い期間においては、子育ては母親だけでなく大家族や親族共同体の皆が分担し、手伝う仕事でした。祖父母、叔父叔母、年上の子ども、いとこなどが身近な子育てチームで、母親の周りに人手はたくさんありました。
● 祖父母の一番の役割は 母親の心身を支えること
現代の祖父母の一番の役割は、子育てで疲弊している親たち、特に母親を支えることです。人手を提供して自分の時間を持てるようにする、悩みや心配に寄り添い視点を変える知恵を提供する、そして経済的支えです。「口出ししない」「余計なことをしないのが今どきの祖父母」などと思いこまないことです。それはアメリカの祖父母の在り方で、グローバルスタンダードではありません。
まずは母親が疲れているとき、イライラしているとき、ちょっと子どもを預かりましょう。赤ちゃんに大泣きされて母親のほうが泣きたい気持ちになっているとき、「ゆっくり眠りなさい」と赤ちゃんを自分の部屋に連れていく。子どもがいうことを聞かず、親の声がとがってトーンが高くなっているときは、子どもを外に連れ出して冷却する時間を持つ。夕食の支度や後片付けをする、掃除や役所の手続きを代わりにやってあげる、そうした些細な手助けが、母親の孤立した子育てに余裕を与えます。
そして母親が1人で過ごす時間――本を読んだり、買い物したり、友達とおしゃべりしたりする時間――をプレゼントするのです。いつもいつも「やらなければならないこと」に追われている状態から解放されると、母親の心がよみがえります。働いている母親に1週間に1日か2日、「ゆっくり帰ってきていいよ」とくつろぐ時間をプレゼントするのも良いと思います。
「時間をプレゼント」は目に見える支えですが、母親の心配を「言葉の贈り物」で軽減させてあげることも重要です。母親の心配は無限にあります。