2024年12月、ウクライナ軍無人艇の対空ミサイル「R-73」空対空ミサイル改良型「シードラゴン」が、黒海でロシア軍ヘリを攻撃し撃墜した。
【筆者作成の図】上から下への攻撃と下から上への攻撃。無人機が上から下への攻撃しかできないという発想は筆者の思い込みだった
海上の無人艇が空中を飛行するヘリを撃墜したのは、世界でも初めてのことであった。
私はこの時、無人艇の防空ミサイルがヘリを撃墜できたのは、飛行速度が比較的遅いヘリであったこと、そして偶然が重なって撃墜できたのではないかと考えた。
しかし、それから半年後の2025年5月3日、ウクライナ軍の無人艇「MaguraV5」に搭載された空対空ミサイルA「IM-9サイドワインダー」(射程:長距離18キロ、短距離5キロ)が、黒海のノボロシスク港の付近で、ロシア空軍戦闘機「Su(スホイ)-30」×2機を撃墜した。
無人艇が高速で移動する戦闘機を攻撃して撃墜したのも世界で初めてであった。
高速で飛行する戦闘機が、レーダー誘導や兵士の直接照準によるものではなく、数百キロ以上離れた遠距離誘導の無人艇搭載の防空ミサイルに撃墜されたことに、私は大変驚かされた。
戦争史に残る事例となるだろう。
■ 1.なぜ戦争史に残るのか
ウクライナ戦争が始まってから、無人機(ドローン)は、戦場から少し離れた地点から誘導され、空中の高所から固定あるいは地上を走行する目標を見つけ、攻撃に入る。
つまり、これまでは、「上空から地上へ」というのが、無人機の常套戦術であった。
ところが、前述の2つの戦例は、この戦い方の根本を覆すもので、新しい発想であった。
これまでは大変難しいことのように思えていた。
しかし、無人機が上から下への攻撃しかできないという発想は、技術革新という要素を考慮に入れていない思い込みであったようだ。
無人艇がもつ先端的な防空システムを考えれば、無人艇が下から上への攻撃ができるようになって全くおかしくなかった(図)。
図 上から下への攻撃(左)と下から上への攻撃(右、イメージ)
そこで今回は、(1)短距離防空システムを遠隔操作するシステム、(2)無人艇が戦闘機撃墜を可能にする遠隔操作システム、(3)視認できない小型無人艇からの脅威、(4)無人艇を遠隔操作するための敵の衛星システムの破壊、(5)ロシア軍機、黒海とクリミア半島での飛行の可能性、(6)将来の防空戦・航空戦の変化の点を考察する。