たまにしか会えない孫に、祖父母は何をしてあげられるのか。多くを語らず、欲しがるものは何でも買ってあげるべき?その問いに、ベストセラー作家の坂東眞理子氏が答える。※本稿は、坂東眞理子『祖父母の品格 孫を持つすべての人へ』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
● 祖父母が自分の昔話を 孫にすることの大切さ
孫たちには、自分の人生を語りましょう。
その中の数々のエピソード、たとえば子どもの頃はどの家にも子どもがいて、夕方暗くなるまで遊んだこと。朝はかまどでご飯を炊いたこと、食事は焼き魚や煮魚が多く、ハンバーグはなかったこと。普段の服は手編みのセーターや母がミシンで縫ったワンピースだったこと。お祭りやお正月には着物を着たこと。父親や母親から何をどう教えられたか、どんな悲しいことがあったか、どんなうれしいことがあったか、思い出を話しましょう。人生の幸福は、味わった感情の積み重ねで計られます。
その中で、貧しくても不便でも助け合い、一生懸命努力したことを伝えましょう。
昔のことを言っても孫たちには興味がないだろうと話してもムダと思い込んでいる祖父母が多いのですが、そんなことはありません。
もちろん子どもが幼児の頃、小学生の頃、中学生の頃、と興味を示す対象は変化してきますし、思春期などの時期は期待するほど興味を持たない場合もありますが、それでも祖父母の話は記憶の片隅に残ります。
もっと成長して30代、40代になってくると、祖父母の話は貴重な情報だったなということがわかってきます。人生を重ねると、祖父母の人生から得た情報が自分の考え方や価値観を組み立てる素材の1つになることも多いのです。
生活の記憶だけでなく、孫に対して、自分の人生を誇りをもって語りましょう。自慢するほどの人生ではなかった、大したことのない平凡な仕事人生だった、別に誇れることも成し遂げなかったなどと卑下して自分の人生を否定してはいけません。
それぞれの場で幸福を求め、いろんな思いを持ちながら精一杯に生きてきたのです。教訓やお説教ではなく、誇りと愛情をもって自分のエピソードを語るのです。
もちろん語りたくないことは話す必要はありません。しかし人から助けられたこと、自分が頑張ったこと、努力による成功体験などを伝えましょう。子どもに自己肯定感を持ってほしいと思うなら、まずは自分の人生を肯定し、ポジティブに表現しましょう。
今の自分の生きている世界がすべてではないのだ、と孫にわかるだけでもよいのです。
● まずは身近な孫たちに 自分史を語ってみよう
親の話より祖父母の話のほうが珍しいはずです。私の母は昔話をよくする人だったので、水橋という母の育った海辺の町の暮らしぶり、たとえば豆腐や納豆の行商人が家まで来たことや、近所の魚屋さんに注文しておけば食事の時間に刺身や焼き魚が届いたといったことなど、こまごまと聞いていました。母の父がどんな仕事をしていたかや、母の母の実家が里帰りしたらとても歓迎してくれて夏休み中滞在したことなど、切れ切れに覚えています。
それがどうした、何の役に立ったかと言われるとそれまでですが、前の世代が異なる環境で精一杯生きてきたのだと知れることや、母、祖父母の命の流れが自分にまで続いているという感覚は悪くはないです。私の母は、孫娘たちに自分史を繰り返し語っていました。
年を重ねると自分史を書こうと考える人もいるのですが、まずは身近な孫たちに自分史を語りましょう。自分の生きた証とまでは言いませんが、体験を伝えるのです。
祖父母にも幼い時があって、子どもの頃、若い頃を経て、年を取るまでいろんな人生を経験しているのだと共感してくれるかもしれません。