夏の賞与が話題に上る時期となった。出るのか、出ないのか。増えるのか、減るのか…。そうした中、ソニーグループが冬の賞与を廃止し、給与化するとの報道が流れ、世間がざわついた。今後、企業は賞与支給をなくし、‟給与化”へ傾いていくのか。
バンダイら大企業でもじわじわ広がる賞与給与化
4月から給与体系を変更する企業もある中で、大和ハウスやバンダイも‟賞与給与化“を導入している。
大和ハウスは「近年は物価上昇が続く中、継続的な給与改定を行ってきましたが、2025年度は、より安心して意欲的に能力が発揮できる環境を整備するとともに、中長期的に事業の成長を担う人財を確保するため、月例給与水準の大幅な改定を行うこととしました」とし、月給と賞与の比率を見直した。
具体的には月給水準を引き上げ、賞与比率の減少分を特に若年・中堅層に振り分けることで、同層の年収約10%増加を実現している。
バンダイも2022年度から賞与の一部を給与に振り分けることで、初任給を大幅に引き上げた。2025年度は新卒社員の初任給をさらに引き上げ、29万円から30万5000円としている。さらに各役職の給与下限額も1万5000円増額した。
賞与廃止・縮小の狙い
大企業を中心にじわじわ広がる賞与の廃止・縮小。
これだけをみれば悲観的になってしまうが、廃止・縮小分は、月給に振り分けられる。つまり、一回ごとのインパクトが大きい賞与こそ一部廃止・縮小されるものの、いずれもトータルの手取りは大きく変わらないたてつけとなっている。
企業側の狙いは月給を増やして採用競争力を高めることや、年俸制の導入・定着を推進することにある。
年収ベースで減少させる思惑はなく、むしろ安定的に収入を得られるようにする。そのことで、物価上昇などの景気変動にも対応しやすくなり、人材獲得アピールにもつながりやすい。賞与給与化は不確実な時代の戦略的な給与体系へのシフトといえる。
収入安定化以外の隠れた狙いとは
労働問題に詳しい向井蘭弁護士は、こうした賞与給与化のメリットを認めつつ、ソニーグループについてはほかの思惑もあると推察する。
「ソニーの賞与廃止の目的が月給の増額による採用競争力の向上や、年俸制の導入・定着にあるのは確かにその通りだと思います。ただし、ソニーにはそれ以外にも隠れた狙いがあると考えられます。
ソニーは年次に関わらず、現在の役割に応じて等級や報酬が決定される『ジョブグレード制』を採用していると言われています。
しかしながら、日本の賞与制度は、どうしても横並び意識や年功序列的な運用に陥りやすいという側面があります。
現に労働組合との交渉では賞与がメインテーマになることが多く、日本の大企業では、賞与の金額全てではないとしても、個人の評価に関係なく、一律で上がったり下がったりする部分が多いです。
そこで、ソニーは、いっそのこと賞与を廃止し、個人の年ごとの評価によって賃金が大幅に変動する、より成果主義の色彩を強めた制度を考えているのではないでしょうか。
賞与がなくなることで、かえって大幅な昇給もあれば、大幅な減給もあり得る。よりメリハリの利いた賃金体系になる可能性があります」