移民・難民問題が、世界各国で取り沙汰されている昨今。日本でも中長期にわたって在留する外国人は313万人(23年末)に達している。コンビニの店員や建設現場の作業員として身近な存在となりつつある一方で、外国人による犯罪が報じられることも増えた。増加し続ける外国人に対し、行政はどう向き合っているのか――。※本稿は、三好範英『移民リスク』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。
● 外国人医療費が払われない… 川口市が抱える“未収金赤字”
クルド人に限った問題ではないが、地方行政も一部の外国人による負の影響に苦しんでいる。その1つが、自治体医療における、外国人による未収金や入院助産制度利用の増加である。
未収金に関して川口市が公表しているデータは、国籍別の数字は公表していない。ただ、関係者の話を聞くと、母数が多い中国人、ベトナム人に加え、クルド人による未収金も大きな部分を占めているようだ。
「令和4年度川口市病院事業予定損益計算書」によると、医業収益185億5667万円の収入に対し、費用は189億5489万円で、3億9823万円の損失だった。入院・外来の未収金は合わせて3億9656万円だが、そのうち外国人の未収金は7471万円、18.8%を占める。
とりわけ産婦人科の診療に関わる未収金2938万円のうち、外国人の占める金額は702万円、24.0%と深刻だ。
ある市会議員によると、5年間の私債権の時効を過ぎた債権放棄案件、つまりもう回収不能とあきらめた件数と金額は、2022年度が218件1592万8185円で、そのうち外国人によるものが52件660万4589円と、件数で全体の23.9%、金額で41.5%を占める。
債権放棄案件で外国人が占める割合は、件数、金額とも増加傾向にあり、金額で2020年度は全体の25%、2021年度は33%だった。
外国人の場合、外来の未収金が入院のそれよりも多いのが特徴だ。過去の議会での発言だが、特に救急外来では、未収金の80%が外国人によるものとの指摘もあったという。
川口市の人口に占める外国人の割合は7.6%(2024年9月1日現在)なので、外国人が医療費を払わなかった割合は著しく高い。
医師法には原則として医師は診療治療を拒んではならないとする「応召義務」が定められている。特に救急医療の場合はそうである。しかし、自治体病院の経営環境は厳しく、多くの未収金は自治体病院の経営を圧迫する原因となっている。
● 「正直、支援したくない」 クルド人妊婦の急増に揺れる助産現場
生活保護を受けていたり、無保険など困窮している世帯を対象に、自治体が出産費用を補助する「入院助産制度」の利用件数は、担当する川口市子ども部によると、2022年度は25件で、そのうち日本人13件、外国人12件だった。
2018年度は全部で18件だったが、その後、外国人による申請が増えてきた。国籍別の件数については公表できないが、2023年2月のトルコでの地震以降、相談に来るトルコ国籍者が増えているのは事実、という。
出産費用は通常分娩であれば30万〜50万円、帝王切開であれば80万〜100万円の費用が掛かる。入院助産制度は、出産間際になって誰からも支援を受けられない、緊急を要する人の出産を支援するのが目的だ。
病院に妊婦健診に来て、出産費用について払えないと相談するケースが多い。病院から直接、子ども部に打診があったり、病院に促されて相談に来たりする。
ただ、支援は本当に支払い能力がないのかどうか調査をしたうえで行われる。外国人の場合は、負担できるコミュニティーや支援者がいたり、収入がないと言いながら稼いでいたり、川口市に居住実態がない仮放免者もいるので、そうした点を確認する。
2024年4月、川口市のクルド人を支援している団体の女性の案内で、クルド人新生児の予防接種に立ち会った。市内の診療所に、生後2カ月の新生児を乗せた乳母車を押して現れたのは、20歳のクルド人の母親だった。