政府が、国内で縮小が続く造船業の再生に乗り出すことがわかった。国が主導して造船ドックの建設や整備を支援し、海外展開も後押しする。世界の造船市場は中国が圧倒的なシェア(占有率)を握り、経済安全保障上の懸念が強まっている。トランプ米政権も造船能力の強化を重要課題に位置づけており、政府は造船分野で日米協力を進め、関税を巡る交渉でも切り札にする考えだ。
政府は、国内産業の支援と日米協力を車の両輪として造船業再生を打ち出す。6月にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に施策を盛り込み、支援に充てる予算の確保を目指す。
国内での支援では、造船業がデュアルユース(軍民両用)産業である点を重視し、経済安保推進法を通じて造船業の国内投資や技術開発、データ基盤整備の拡充を支援する。近年の需要増加に対応できない国内の造船能力を増強するため、国主導で休眠中の造船・修繕ドックを再整備し、新たな造船ドックの建設を支援する。
製造時に発生する二酸化炭素(CO2)を回収・貯留する「ブルーアンモニア」を燃料とする次世代船などの建造を支援するため、造船に充てるGX(グリーントランスフォーメーション)関連予算を増やす。日本企業が海外で大規模ドックを建設し、事業を展開するための支援も行う。
日米協力では、両国で「日米造船再生ファンド」の設立を検討する。日本の設計と部品を活用したブルーアンモニア船や自動車運搬船の共同製造を提案し、日米企業で米国での修繕ドックの整備も支援する。
日本の砕氷艦「しらせ」の技術を基に、新たな砕氷船を日米で共同開発・生産するほか、艦艇の修繕協力も進める計画だ。中国に頼らない日米のサプライチェーン(供給網)構築も目指す。
世界の造船を巡っては、中国が現在、新造船の建造量で7割、修繕で9割のシェアを握る。日本は建造量シェアで1990年代初めに約5割を占めたが、現在は1割程度に落ち込んでいる。中国に依存する現状では、有事の際などに海上輸送に支障が出かねない。政府は造船業の再生で経済安全保障体制の強化を図る。