愛子内親王が皇位を継承する可能性はあるか。『日本人にとって皇室とは何か』(プレジデント社)を上梓した島田裕巳さんは「女性天皇が久しぶりに現れた江戸から明治の初期においては、保守派の間でも女性天皇を容認するような考えも示されていた」という――。
■愛子天皇が誕生したらどうなるか
保守派と言われる人たちが、皇位継承について男系男子にこだわるのは、愛子内親王が天皇に即位することを強く怖れるからではないだろうか。
仮に「愛子天皇」が誕生したらどうなるのか。国民はそれを歓迎し、熱狂するに違いない。何しろ天皇の直系であり、戦後、開かれた皇室を実現する上で決定的な貢献をしてきた美智子上皇后の孫であり、雅子皇后の娘だからである。
男系男子とは言っても、子どもを生み育てる上で、男性の果たす役割はあまりにも小さい。精子を放つということが唯一の役割で、その後は女性の胎内で胎児は成長していく。命を懸けての出産も女性の仕事で、男性がそこにかかわることはない。最近では、男性が出産の場に立ち合うことも多くなったが、そこで何かをするわけではない。昔は産婦人科で出産するのではなく、自宅に「産婆」と呼ばれた女性が来て行われるのが普通で、近所の女性たちがそれを手伝った。
出産後も母乳を与えるのは女性で、粉ミルクが登場することで、ようやく男性は乳児に乳を与えられるようになった。果たして、精子を放つという仕事はそれほど重要なことなのだろうか。大量に精子を冷凍保存しておけば、男性不要の社会だって実現させることができそうだ。
■「日本国は女の治め侍るべき国なり」
それだけ弱い立場にある男性だからこそ、男系男子にこだわるのではないか。もちろん、男系男子での継承を絶対とする女性たちもいるが、要はそれが「男尊女卑社会」の最後の砦(とりで)なのである。
しかも、男系男子に皇位を限定するのは、明治時代になってからの新しい伝統である。
最近刊行した拙著『日本人にとって皇室とは何か』(プレジデント社)では、室町時代の公卿(くぎょう)で、当代随一の知識人として知られた一条兼良(いちじょうかねよし)(1402〜1481年)が、その著作『小夜寝覚(さよのねざめ)』において、「この日本国は、和国とて、女の治め侍(はべ)るべき国なり」と述べ、天皇家の祖神である天照大神(あまてらすおおみかみ)や、応神天皇と習合した八幡大神の母が神功(じんぐう)皇后である点を強調していることを紹介した。
神功皇后の治世は69年間に及んでおり、のちに第15代の天皇から外されたのは、大正15年と近代になってのことだった。『日本書紀』では、神功皇后の治世に1巻があてられている。