亡くなったのに葬儀場が使えない
六代目山口組、住吉会に続き国内3番目の勢力の暴力団「稲川会」総裁の清田次郎が4月21日に死去した。享年84。稲川会としての「会葬」が5月15日、横浜市内の稲川会館で行われた。
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清田は二次団体の山川一家総長から’10年に稲川会会長に就任した。’19年に現会長の内堀和也にポストを禅譲し、その後は一線を退いた総裁の立場となっていた。警察当局の捜査幹部OBは、「専門的に暴力団犯罪捜査を担当していたころ、川崎の山川一家本部事務所で清田に会ったことがある。態度が悪いヤクザが多いなかで、一般的な世間話をした程度だったが、清田の話しぶりは丁寧で紳士的な対応だったことを覚えている」と、人となりについて語る。
稲川会は国内最大の暴力団・六代目山口組とは友好関係にあるとされており、六代目組長の司忍(83)、若頭に就任したばかりの竹内照明(65)ら最高幹部が参列したほか、住吉会会長の小川修司ら全国から20以上の組織の代表者らが参列した。暴力団社会では、今回のような葬儀のほか、組織のトップが交代した際の襲名披露などは「義理事」と呼ばれ重視されている。ただ、そのあり方は時代とともに変化している。東京都内で主に活動している指定暴力団の幹部が明かす。
「葬儀であるにもかかわらず、近年はヤクザだということで斎場を使用することができなくなっている。反社会的勢力の排除ということで、斎場から断られることもある。そこで、組の名前を伏せて、『家族葬』という形での葬儀にするケースが多い」
かつては、政治家や企業経営者、芸能人ら著名人の葬儀が行われてきたことで知られる東京の青山斎場などで、指定暴力団幹部の葬儀が盛大に行われていたこともあった。しかし、前出の暴力団幹部が「まずこうした葬儀は考えられない」と語る。実際に稲川会の場合は、全国からの弔問客を受け入れられる自らの施設での実施となった。
◆香典の総額は数億円規模
会葬の前に、稲川会山川一家と家族による葬儀が4月26日に川崎市内の山川一家本部事務所で行われた。首都圏に拠点を構える前出とは別の指定暴力団の古参幹部が、香典事情について指摘する。
「4月の家族葬での香典は、経費を差し引いて遺族に渡されたはずだ。稲川会会葬の場合は、主催者は稲川会なのですべての香典を組織として受け取ったのだろう。総額で数億円になるだろう」
一般社会では冠婚葬祭におけるご祝儀や香典は習慣的に非課税となっている。国税当局の幹部は、「億単位の香典を集めたとしても、課税対象となることはない。一般国民と扱いは同じ」との見解を示す。
こうした斎場の利用制限や香典の逸話以外には、服装や慣習に大きな特徴はないという。しかし、多くの暴力団幹部が集まる場というだけあって、過去には血生臭い事件も起きている。’01年8月に住吉会幹部の葬儀が行われていた東京都葛飾区の四ツ木斎場に、稲川会の組員が紛れ込み、拳銃を発砲。住吉会の最高幹部2人が殺害され、1人が重傷を負うといった事件が発生したことがあった。この出来事は「四ツ木斎場事件」として、警察当局の捜査幹部と暴力団業界の間で長く語り継がれている。
現在は稲川会と六代目山口組、住吉会は友好関係にあるとされている。ただ、警察当局の幹部は、「ささいなトラブルから、対立抗争に発展する可能性はないわけではない」との見方を示している。細かなルールがある一方で、凄惨な事件も起きる。それが、渡世の葬式事情なのだ。(敬称略)
取材・文:尾島正洋
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