中国屈指のボタンの産地、山東省菏沢市を訪ねると、満開のボタン園で若者たちが伝統衣装の「漢服」を着て写真撮影していた。中国では漢服を着て写真撮影し、交流サイト(SNS)に投稿する人が増加。観光地にはレンタル店が並び、専門のカメラマンもスタンバイしている。経済発展に伴って自国の文化を再評価する「国潮」ブームが続いており、関連産業を含めた2023年の「漢服市場」は145億元(約2900億円)に上るとの試算もある。 (菏沢市で伊藤完司)
4月8日夜、ボタン園がある菏沢市では今年の新作を発表する「漢服文化節」が開かれ、漢や明など漢民族による王朝時代の衣装をモチーフにした漢服を着たモデルが舞台を練り歩いた。周辺には漢服業者が集中しており、肖友華副市長は「(同市は)オリジナルのデザインから生産、販売までを一体で行う『漢服基地』となった」と強調した。
同市で中国最大規模の漢服製造販売会社「有愛漢服」を経営する李字雷社長(37)は08年から6年間、岐阜県に留学し、大学で経営学を学んだ。留学前、地元には漢服などの伝統衣装を着る人はほとんどいなかったが、日本では冠婚葬祭や祭りで着物や浴衣をまとう人をよく見かけた。
「中国人も伝統衣装を着るようになったら面白い」と思い、14年に帰国後、漢服の設計や販売を始めた。デザインは過去の資料を読み込んで伝統と今の流行を融合させた。現在、同社の展示販売施設には他社製を含めて約4千種類の漢服が並び、全国のレンタル業者が仕入れに来るほか、社員が一般の消費者向けに生中継しながら販売する「ライブコマース」もしている。
売り上げは19年から20倍以上に増え、24年は約1億5千万元(約30億円)に。「中国人は昔は自国の文化に自信がなかったが、国力が強くなり、好きになった。日本のように普段から伝統衣装を着る文化が定着すればいいと思う」
中国メディア「光明網」はシンクタンクのデータを引用し、27年の漢服市場は約240億元(約4800億円)規模に達すると指摘。専門家は「(SNSなどに投稿された)ショート動画とライブコマースが普及に一役買っている」と分析した。
漢服は通販サイトで50元(約千円)程度から購入でき、観光地では漢服レンタルやヘアメークを含めたサービスが200元程度から提供されている。漢服でコスプレした若者が観光地で列をなして写真撮影する姿は、「内向き」とも指摘される国潮ブームが根付いている現状を象徴している。