藤井聡太名人(22)に永瀬拓矢九段(32)の挑戦を受ける、将棋の第83期名人戦7番勝負第5局が30日、茨城県古河市「ホテル山水」で行われた。29日午前9時からの2日制で始まった対局は、第4局に続いて同一局面が4回出現する千日手が30日午前11時、67手で成立した。先手後手を入れ替えて30分後から始まった指し直し局も双方1分将棋となる熱戦の末、午後11時16分、171手で先手の藤井が劣勢をひっくり返して逆転勝ち。対戦成績4勝1敗で3連覇を果たした。名人戦初登場の永瀬は挑戦を退けられた。
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やっとチャンスが巡ってきた。千日手指し直し局の終局約1時間前の午後10時20分すぎ、永瀬の攻めがひと息となったタイミングで逆襲に転じた。
苦しい時間帯が長かった。「指し直し局は戦いが始まってから数手で苦しくなってしまった。最後の最後まで苦しい局面は続いていたと思えるので、内容としては反省点が多かったかなと思う」。終局後に出た言葉どおり、劣勢を意識するシーンが多かった。力なく汗ふきシートで顔をふき、ほおづえを突いてぼうぜんと盤を見ていた姿は、どこへやら。自陣を寄せられない形にすると、最後は盤をじっと眺めて永瀬玉を追い込んでいった。
永瀬が採用した角換わり後手3三金&8四歩型は、第2局と同じ。この時も最後に抜け出している。今回は最善手を途中まで連発していたキレキレの永瀬の指し手に苦しめられた。底力でひっくり返した。
史上最年少の20歳10カ月で名人を獲得した一昨年、初防衛した昨年に続いて第5局で決めた。前期も3連勝した後、大分対局(別府市)でつまずいたが、北海道紋別市で立て直した。今期もやはり3連勝の後、大分対局(宇佐市)で星を落としたが、切り替えた。タイトル戦7番勝負で連敗しない男の面目を保った。盤上では前例のない局面となったが、じっくり腰を落として考え、結果を出した。
茨城県で初の名人戦。盤外でも対局場所となる古河市についてキチンと下調べしてきた。「東北本線で茨城県唯一の駅。利根川と渡良瀬川の合流地点の近くにある交通の要衝で、江戸時代には城下町として栄えてきました」と28日の前夜祭でスピーチして、地元の関係者やファンを喜ばせた。盤上でも結果を出した。感想戦を終え後、会見場に入った時は日付が変わっていた。それでも待ち構えて迎え入れた地元スタッフの拍手が何よりも祝福の表れだろう。
今シリーズを振り返り、「第2局から第5局にかけて序盤から中盤にかけて千日手がからむ展開だった。千日手で形勢をどうみるか、非常に難しい。その点を名人戦で、改めて強く感じた」とした。
永瀬とは7月からの王位戦7番勝負でも相まみえる。来月3日にはタイトル戦初登場の杉本和陽六段の挑戦を受ける棋聖戦5番勝負もある。「名人戦の反省を含めて、少しずつ実力を高めていきたいと思います」。年度始まりの名人戦でまず防衛し、ここからギアを上げていく。