11月7日、高市早苗首相は国会答弁で台湾有事が日本にとって「存立危機事態になりうる」と発言した。元陸上自衛隊西部方面総監の小川清史さんは「同盟国への攻撃が日本の存立に重大な影響を及ぼすと判断された場合、自衛隊による武力行使が可能だ。しかし、武力行使の判断・命令を下す政治サイドには深刻な懸念がある」という――。
※本稿は、小川清史『合憲自衛隊』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■台湾有事の際に想定される問題点
1970年代後半にいわゆる有事法制の研究が行われ始めた頃、反対派の方々から「また、日本が戦争をするように仕組みをつくるのか」「国民を巻き込む有事法制には反対する」といった論調の批判があったと記憶しています。
しかし、研究を経て実際に制定された有事法制は、そのような論調とは全く異なるものでした。有事の際における自衛隊の行動が平時の国内法違反とならないように、適用除外や特例を設けるものとして自衛隊法に規定されたのです。
一方で、有事下における国民の保護については、法的強制力や義務のない「国民保護法」が制定され、実際の有事において国民が武力攻撃発生前に無事に避難できるのかが問題となる状況も生じてしまいました。
国民保護に関する議論はそれだけで一冊の本になるくらい重大な問題なのですが、本稿のメインテーマではないので、ここでは自衛隊法に規定されている有事法制について、問題点や解決策を論じたいと思います。
■自衛隊トップの身を賭した提言
有事法制の問題については、栗栖弘臣統合幕僚会議議長(以下、統幕議長)の発言に触れないわけにはいきません。
1978(昭和53)年7月、栗栖統幕議長が『週刊ポスト』のインタビューに対して「現行自衛隊法には不備があり、奇襲侵略を受けた場合、首相の防衛出動命令ができるまで自衛隊は動けない」「そのため、第一線部隊指揮官は超法規的行動に出ることがありうる」という主旨の発言をした記事が掲載されました。
この「超法規」発言はシビリアン・コントロールの原則に反するとして政治問題化し、栗栖氏は事実上解任されてしまいましたが、その2年前のMIG-25事件などを契機としてすでに有事法制研究は本格化していました。
有事に自衛隊が行動するための法制上の問題点については、前年の1977(昭和52)年8月から防衛庁による正式な有事法制研究が行われていました。しかし、当時の研究は、立法化しないことを前提とした、内部的な検討にとどまっていました。栗栖統幕議長の発言はこれに対して「立法化すべきだ」とする問題提起でもあったのでしょう。






