2023年4月9日に植田和男氏が日本銀行総裁に就任して以降、日本円の価値は急速に下落しています。就任翌日のドル円為替レートは1ドル132.6円でしたが、本記事執筆時点(11月25日)では156円台で推移しており、その円安進行の度合いは顕著です。なぜ、高市早苗氏が首相に就任し、高い支持率を得ているにもかかわらず、円安が加速しているのでしょうか。
植田日銀の金融政策転換と高市氏の「けん制発言」
前任の黒田東彦総裁が「金融の異次元緩和」を掲げ、市場に大量の円を供給する金融政策を推進したのに対し、植田総裁率いる日本銀行は2024年3月19日の金融政策決定会合で、11年間にわたる大規模な金融緩和策の終了を決定しました。金融市場では、植田総裁の就任当初から「異次元緩和は終わる」「金利は上がる」との見方が広がっていました。
しかし、インフィニティ合同会社チーフ・エコノミスト兼テラ・ネクサスCEOの田代秀敏氏によると、植田総裁が大規模金融緩和の終了を発表してから約半年後、高市氏が日銀の金融政策に対して批判的な発言を行い、大きな注目を集めました。高市氏は2005年に「ゼロ金利との戦い」を出版した経済学者である植田氏に対し、当時の自民党総裁選立候補の際に「金利を今、上げるのはアホやと思う」と発言。これは、金融市場において「積極財政論者」と見なされていた高市氏が、日銀の金融政策をけん制する形となりました。
笑顔で演説する高市早苗首相の姿
高市氏は今年10月21日、首班指名選挙で第104代首相に選出され、物価高対策に「有言実行」で踏み切る姿勢を見せています。
高市政権の積極財政と「円の全面安」
高市政権が掲げる経済・物価高対策は、当初17兆円規模と報じられていましたが、11月21日の臨時閣議で減税分などを加えた規模は21.3兆円と決定されました。この積極的な財政出動が、さらなる円安を招いていると田代氏は指摘します。
「基本的に、流通量の多い商品は価格が安くなり、少ない商品は高くなります。通貨も同様です。高市氏のように積極的な財政出動を行うと、政府から円が市場に流れ出し、円の流通量が増えるため円安基調になります。円を保有する投資家は、高市政権の経済政策に対し『自分が持っている円の価値が下がる一方だ』と判断し、円を売り始めています。」
問題は、円が単にドル、ユーロ、人民元といった主要通貨に対して安くなっているだけでなく、アルゼンチン・ペソと並び「弱い通貨」とされるトルコ・リラに対しても円が安くなっており、まさに「全面安」の様相を呈している点です。実際、11月13日には1ドル154.4円だったドル円レートが、11月20日には157.5円へと急騰しました。
ドル円為替レートの推移を示すグラフ。名目と実質の比較
「名目為替レート」だけでは測れない円安の影響
新聞やテレビで報道される「1ドル154.0円」や「1ドル157.3円」といったドル円の為替レートは、経済学では「名目為替レート」と呼ばれます。しかし、この名目為替レートだけを熱心にチェックしていても、円安が日本経済に与える影響を正確に測りきれない場合があると指摘されています。物価変動を考慮した「実質為替レート」など、多角的な視点から円の動向を分析することが、日本経済の現状を理解する上で不可欠です。
高市政権の積極的な経済対策と日銀の金融政策転換が交錯する中で、円の価値は変動を続けています。今後の政策動向とそれに対する市場の反応が、円の行方を大きく左右するでしょう。





