日本社会において、大企業のミドル・シニア層が持つ豊富な経験と知的資本が、十分に活かされていない現状があります。転職による給与待遇の低下や年齢による採用の壁が、彼らの流動化を阻む要因となっているようです。しかし、ミドル・シニアの活躍の場を広げることは、労働力の増加や社会全体の生産性向上につながる重要な課題です。本記事では、宮島忠文氏・小島明子氏の著書『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP 日本経済新聞)より、ミドル・シニアの流動化の重要性について解説します。
大企業こそ50歳以上の中途採用を、中小企業は若者信仰を捨てる
大企業に所属するミドル・シニアの流動化が進まない理由のひとつに、転職により給与待遇が悪くなることが挙げられます。ゆえに大企業こそ、スキルが高い50歳以上の人材を見劣りしない待遇で採用するようになれば流動化は進むと考えられます。
また、中小企業は人手不足であるものの、若手人材を求める傾向があるため、ミドル・シニアの活用を推進することが求められます。
なぜミドル・シニアの流動化が必要なのか?
「社会全体としてのジョブローテーション」を実現する
大前提として、なぜミドル・シニアの流動化が必要なのでしょうか。ミドル・シニアが流動化するということは「人生100年時代」において活躍する人材を増やすことにもつながります。放っておけば、ミドル・シニアにとってよい仕事がないということで、働き手のポジションから退出してしまうことになります。すなわち、流動化を高めることは労働力が増加するということになります。
また、さらに大きいことは、ミドル・シニア層は重要な知的資本の保有者であるということです。知的資本は付加価値を生みます。この層が活躍するということは、生産性が高まり社会の効用が高まることにもなります。つまり、社会としてミドル・シニアの活躍の場・状況をつくらなければならないと考えます。
確かに未来のためには若手人材が重要なのですが、一方で、現状は、あまりにもミドル・シニアを社会として活かしていないといえます。役職定年・再雇用は企業として生き残るためにやむを得ない制度ともいえますが、個社の努力だけではなく社会全体としてその能力を活かす機会を創らねばなりません。近時は労働者の流動性が高まっているといわれますが、これは高い需要に起因する若手人材のことであって、ミドル・シニアを見ると必ずしもそうではありません。依然として年齢による採用の難度の違いは存在しています。
さらに社会として考えれば、企業間の流動性を高めるということ、すなわちミドル・シニアの活躍の場を増やすことが「社会全体としてのジョブローテーション」の実現になり、社会の効用を高めることにもつながります。また、流動性はミドル・シニアこそ必要であり、多様な経験を積むことで柔軟性かつ可変性のある人を創り上げることにもなります。